黒島結菜が“悪役”になる画期的な『ちむどんどん』 愛と智の今後の人生を祈って

主人公が悪役になる画期的な『ちむどんどん』

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』の第14週「渚の、魚てんぷら」は暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)の結びつきを阻む障害がなくなっていく。暢子は智(前田公輝)のプロポーズを断り、和彦は愛(飯豊まりえ)に結婚はできないとはっきり言うのだ。

 「障害」と書いてしまったが、智と愛は通常のドラマにおける「障害」という役割では決してなく、彼らには彼らなりの真面目な想いがある。筆者は何度もレビューで書いているが、彼らは極めて善人なのである。もし彼らが「障害」とされるとしたら、それはそういう視点から見たからに過ぎない。例えば、視点を変えれば智は「ストーカー」にもなり得る。

 智と暢子はやんばるで共に育った幼なじみ。智は子供の頃から暢子が好きで、彼女が上京すると追いかけるように東京にやって来た。

 影になり日向になる暢子に協力しながら、決して早急に迫ることなくゆっくり彼女を見守ってきた紳士的な人物だ。それは経済的に一人前になることで暢子にふさわしい男になるという思い込みにもよるものだった。それが悲しいすれ違いの要因でもある。

 経済的に一人前になったからといって暢子の感情を動かすことはできない。でも智はそれに気づくことができず、自分の信念のまま結婚話を勝手に進めていく。

 ついに「沖縄角力大会」で優勝した後、夕日の見える海辺で暢子を抱きしめようとする智。70年代にはまだなかったが、平成12年に施行された「ストーカー規制法」(令和3年に改定)によれば智の行為は「つきまとい」と考えられ「ストーカー」と認定される可能性もある。

 法律がなかった時代でも、ドラマではたいてい、智のようなキャラは「ストーカー」とされてきた。智にも若干、その恐れを感じないではないが、彼を見ていると現実でも「ストーカー」とされる人物はどんな想いで迷惑行為をしてきたのか気になってくる。智の姿を見て筆者は太宰治の『御伽草子』の『カチカチ山』のたぬきの叫びを思い出さずにはいられない。

 もうひとり、愛もまた描き方によっては、単なる邪魔な今カノになる危険性もあった。暢子と和彦が10年ぶりに再会したとき、和彦は愛とつきあっていた。和彦も暢子もはじめのうちは幼なじみとしての友情を再燃させていたに過ぎないが、じょじょに、お互いが気になっていく。愛にしてみたら、なんの非もないのに、和彦が心変わりするのだからたまらないだろう。

 第70話で、和彦の気持ちをわかっていないふりをしていたと手紙で謝罪した愛。ともすれば彼女は和彦と6年以上つきあったことを盾にして、その心変わりを全力で阻止し結婚に持ち込もうとする人物にもなりかねない。暢子へ嫉妬の炎を燃やし、見せつけるようにキスをしたり、智のサプライズプロポーズを暢子に事前に教えたりすることで気持ちを揺さぶらせようとしているようにも見えないこともないのだ。でも、愛のその行為は悪意というほどのものではなく、負けが目に見えている人物のささやかな抵抗でしかない。だからこそ、視聴者の多くは愛に気持ちを寄り添わせることになる。

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