『ペーパー・ハウス・コリア』は対立構造をとことん描く 韓国版ならではの見どころを解説

『ペーパー・ハウス』韓国版の見どころ解説

 Netflixで独占配信中の韓国ドラマ『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』。世界中で話題となったスペイン発のNetflixシリーズ『ペーパー・ハウス』の韓国版として、配信前から注目を集めていた。

 大ヒットしたドラマをリメイクするということは、かなり難しい試みだ。本家のストーリーをそのままなぞってしまえば「つまらない」と言われ、大胆に変えてしまえば「イメージが壊れた」と揶揄される。

 本作は、本家のストーリーを忠実になぞりつつ、韓国ならではのテイストが感じられる作品に仕上がっていると感じた。物語を簡単に説明すると、「教授」と名乗る男性(ユ・ジテ)が、さまざまな事情を抱える8人の男女を集め、周到に計画された造幣局への強盗を実行する。8人の強盗団は、ベルリン(パク・ヘス)、トーキョー(チョン・ジョンソ)、モスクワ(イ・ウォンジョン)、デンバー(キム・ジフン)、ナイロビ(チャン・ユンジュ)、リオ(イ・ヒョヌ)、ヘルシンキ(キム・ジフン)、オスロ(イ・ギュホ)。もちろんそれぞれ本名ではなく、名前を含めたお互いの素性を明かさないことがルールになっているのだ。

 完璧に練られた教授の計画に立ち向かうのは、韓国警察の交渉チーム長のソン・ウジン(キム・ユンジン)。教授の巧みな手法に翻弄されながら、事件解決へ邁進しようとするのだが……。今回は、スペイン版と比較しながら、筆者が感じた韓国版『ペーパー・ハウス』の見どころについて述べてみたい。(一部ネタバレあり)

スピーディーでコンパクトなストーリー展開

 物語の内容は、ほぼスペイン版に忠実に描かれているが、韓国版はスピーディーで、視聴者が理解しやすい展開となっている。トーキョーのナレーションで物語が進んでいくところや、8人の強盗団が計画を実行する前、教授からいろいろなことを伝授されるシーンをフラッシュバックのように入れている構成は同じだが、ポイントごとに起きる重要な事件をコンパクトにまとめている。

 登場人物のバックグラウンドや強盗団同士のやり取りをじっくりと見せていくスペイン版は、強盗団たちの人物像を理解するにはとても効果的だった。しかし時折、それらのやりとりが緩慢で、少しかったるくなってしまう場面があった。韓国版は、中だるみする間もなく駆け抜けていくことになり、そうしたジェットコースター感が何とも心地良い。

硬派なキャラクターで描かれるトーキョー

 韓国版のキャストが発表された時、よくもこれだけイメージにぴったりの俳優たちをそろえることができたものだと感心したが、実際にドラマを見ても違和感なく受け入れることができた。

 しかし、各キャラクターの性格はそれぞれ微妙に違いが感じられ、中でもトーキョーが際立つ。スペイン版のトーキョーは、かつて企てた強盗に失敗し恋人が殺され、心に傷を負っている。警察に追われているところを教授に助けられ、強盗団の仲間入りをした。教授を「守護天使」と呼び、尊敬しているところは、韓国版トーキョーが教授を絶対的な存在として認めているところと同じである。

 大きな違いは、韓国版トーキョーが、徹底的に硬派な女性として描かれているところだ。北朝鮮で生まれ育ったが、実は隠れBTSファン。BTSファンは一般的に「アーミー」と呼ばれているが、彼女は北朝鮮の軍で訓練を経験した、本物のアーミーなのだ。

 南北統一が現実になろうとした時、彼女は北朝鮮での過酷な生活から逃れるべく、韓国へやってきた。しかし実際には北朝鮮出身者への差別に苦しむことになり、危機的な状況に陥ったところを教授に救われる。スペイン版トーキョーが、恋愛はご法度だと言われていたにも関わらず、同僚ともいえるリオと恋仲になり、熱いラブシーンを繰り広げる一方で、韓国版トーキョーにそうした隙はない。リオがトーキョーに想いを寄せるところは韓国版でも描かれているが、リオを憎からず思いつつも、これまでのところ強盗という目的を遂行することに邁進するキャラとして描かれている。

 北朝鮮に生まれた彼女が、過酷な生活環境から逃れるために韓国へ来たものの、人生は好転しなかった。「北出身者への差別」という厳しい現実に直面して、愛だの恋だの言っていられない。決めた目標を成功させることに集中するんだ……という頑なな姿勢のトーキョー。

 自身の呼び名を「トーキョー」にすると決めた時、理由を聞かれ、「だって、悪いことをするんでしょ?」と言ったことにさまざまな反応が寄せられているようだが、そのせりふさえも妙に納得してしまうほど、韓国版・トーキョーには、歩んできた人生の過酷さ、悲しさ、暗さがにじみ出ている。まっすぐで硬派な性格であるがゆえに、ぶつかる壁もあるだろう。これから物語の中で彼女がどのような変化を遂げていくのか、注目していきたいキャラクターだ。

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