新田真剣佑、なぜ“ラスボス”に? 『ハガレン』『るろ剣』で見せるキャラクターの深み
本シリーズへの新田の参加は、観客の“信じる”という行為を肯定し、私たちの期待に十二分に応えるものになっていると断言したい。先述しているように肉体づくりによる見た目のリアリティはもちろんだが、特筆すべきは内面の表現だ。スカーはアメストリスの錬金術師たちの手によって、大切なものをすべて奪われた。そこで彼の内に生じた悲しみや憎しみが今作で描かれる物語の主軸であり、この感情が露呈すればするほど、作品は太く大きくなる。つまり、“スカー=新田真剣佑”がどのようにあるのかが、本作の手触りを決定づけるのだ。過去の記憶を訥々と語る際の虚ろな瞳と冷たく震える声は、スカーが内に抱えている底知れぬ喪失感を示し、エドたちに向けた鋭い眼光と咆哮は、彼の怒りの大きさを訴えている。設定上でもスカーはただの悪役ではないが、新田の一つひとつの表現が、キャラクターに多面的な深みを与える。アクションシーンがあるためスカー役にはフィジカルの強さも求められるが、それ以上に重要なのは、あまりにも重いものを一人で背負う彼のメンタリティなのである。
本稿の冒頭でも触れているように、新田は『るろうに剣心 最終章 The Final』でもラスボス的ポジションを担った。同作で演じた雪代縁も復讐のためだけに生きる男であり、スカーに近しい役どころだっただろう(ただし、錬金術師だけを狙うスカーに比べ、目の前のすべてを破壊する縁の方が圧倒的に残虐性は上である)。スカーにしろ縁にしろ、演じる役の背景までを新田が物語ることができなければこのキャラクターたちはもちろんのこと、作品そのものの手触りがまったく違うものになっていたはずだ。両作が単なる勧善懲悪モノに陥っていないのは、シナリオ上そうなっているだけでなく、新田がラスボスを演じているという事実がもっとも大きい。フィジカル面、メンタル面、ともに演じるキャラクターが背負っているものを彼は体現してみせる。原作キャラの再現ではなく、体現だ。キャラクターの持つエッセンスをベースとしつつ、彼は新たに縁とスカーを生み出した。新田真剣佑は、若くして総合力の高い俳優である。同世代の俳優で、彼ほどラスボスを演じるのに相応しい俳優はそういないだろう。
■公開情報
『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』
『復讐者スカー』公開中、『最後の錬成』6月24日(金)公開
出演:山田涼介、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、本郷奏多、黒島結菜、渡邊圭祐、寺田心、内山信二、大貫勇輔、ロン・モンロウ、水石亜飛夢、奥貫薫、高橋努、堀内敬子、丸山智己、遼河はるひ、平岡祐太、山田裕貴、麿赤兒、大和田伸也、舘ひろし、藤木直人、山本耕史、筧利夫、杉本哲太、栗山千明、風吹ジュン、佐藤隆太、仲間由紀恵、新田真剣佑、内野聖陽
原作:荒川弘『鋼の錬金術師』荒川弘(『ガンガンコミックス』スクウェア・エニックス刊)
監督:曽利文彦
脚本:曽利文彦、宮本武史
企画・制作プロダクション:OXYBOT
配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会
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