幸せは近くにある 『私たちのブルース』キム・ウビン、イ・ビョンホンらが伝えてきたこと

『私たちのブルース』が伝えてきたこと

 帰りのフェリーでは、窓を息で曇らせ文字を教えているドンソクがいた。済州、木浦、プルン、犬の名前。そして両親、夫、娘、ドンソクの名。オクドンはこれまで自分を支えてくれたものを胸に刻むかのように、窓に書かれた文字を一生懸命に目で追っている。

 行きたい場所に連れて行って、食べたい物を2人で食べて、歩きやすい靴を履かせて。オクドンのやりたいことは、ドンソクがしてあげたかったことでもあった。「犬を優しく見つめるように息子を見てくれ」「生まれ変わっても俺の母親になる?」。幼い子供が言うような台詞をためらわずに言って、母親との時間をただ一緒に過ごしたかったのだ。

 雪に覆われた白鹿譚(ペンノクタム)の景色を見せるためにひとり山に登ったドンソクだが、悪天候のため登頂はできなかった。けれど「花が咲いたら一緒に来よう」というメッセージは、この瞬間がなければ伝えられなかったとも思う。ドンソクが次にここに来るのは、腹が立った時ではなく、母親に会いたくなった時だろう。「今が最高に幸せ」と言ったのは、2人で来たこのハルラ山なのだから。

 「俺の好きな人」とミン・ソナ(シン・ミナ)を紹介されたオクドン。自分の力で息子のヨルを育て愛情を注ぐソナは自分とは正反対で、頼もしくも羨ましくも映ったかもしれない。何より優しく情が深いドンソクの性格をわかっているソナに、喜びと安心の笑みを見せた。そんなオクドンを見つめるドンソクは、自分の未来を見せたかったのだろう。

 オクドンは最期にドンソクの好きな味噌チゲを作って逝ってしまった。母親を憎みたかったのではなく、仲直りしたかったという本当の気持ちに気づくのが今だなんて。生きていれば後悔は避けられない。だけど悔いてしまうことばかりでも、人生が終わるわけではない。ドンソクの言葉どおり、残されたものは生きていくしかないのである。

 プルン村は親善運動会で大盛り上がり。プルンにいる皆の存在が、互いを励まし笑顔にさせていたのだと思い出す。片足で跳ねるプルンの人たちは、よろめいてぶつかって倒れても、応援し合っていくだろう。今日は悲しくても明日はきっと幸せになるために。

■配信情報
『私たちのブルース』
Netflixにて独占配信中
(写真はtvN公式サイトより)

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