『17才の帝国』は“めでたしめでたし”だったのか 取り戻すことのできない失われた時間
唯一、実体のない彼女が主人公になれる時間がある。坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)による主題歌「声よ」が流れるエンディングだ。初回から第4話にかけては、スノウ、もしくは、白井雪の亡霊ともとれる存在が、各話において登場人物たちが過ごした場所に1人佇む様子が描かれた。彼女は存在しないけれど、たしかにその世界に息づいている。
一方、最終話のエンディングでは、スノウではなく、物語上で「3年後」と示される現在のサチが、これまでの映像が映し出されるスクリーンの前に佇んでいる。彼女は、「きっと戻れない」過去、視聴者からすれば「終わってしまった物語」に触れるように愛おしげにスクリーンに触れる。それはどこか、保坂(田中泯)が、第4話において、海辺でグラスを通して過去の映像、青波祭りの光景を目の当たりにし、そこに幼い頃の自分を見て、彼と共に思わず両手を空に向かってあげる姿に似ている。彼もまた、永遠に取り戻せない、失われた過去に手をのばす。
また、こうとも言える。ウーアを舞台にした政治劇の到達点であり、さらには青春パートのクライマックスとも言うべき「祭り」の空間に、物語の中心にいたはずの真木自身はメタバースによって実体を伴わない形で存在している。それは、「救世主になったかもしれない少年を選ばなかった」住民が失ってしまったものが「真木」その人なのだということを暗に告げていた。最終話の副題である「ソロンの弾劾」は、この物語を見つめている視聴者の姿がそのまま反映されたウーア住民の声による「弾劾」でもあった。また、名付け親である平の思いを汲むかのように、真木を選ぶことによって結果的に鷲田(柄本明)を失脚させ「政治の腐敗を防いだ」という意味での「弾劾」ともとれる。
本当にこれで「めでたしめでたし」なのか。真木のいなくなったウーアは、平が治める日本は……。そうやって考えることが、私たちが生きていく日本の未来を考えていくことに繋がるのかもしれない。
■配信情報
『17才の帝国』
NHK+にて配信中
出演:神尾楓珠、山田杏奈、河合優実、望月歩、染谷将太、星野源ほか
作:吉田玲子
制作統括:訓覇圭
プロデューサー:佐野亜裕美
演出:西村武五郎、桑野智宏
写真提供=NHK