私たちの“帰る場所”になってくれる物語 『あなたに聴かせたい歌があるんだ』が描く“希望”
本作は、デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がベストセラーとなった作家・燃え殻が書き下ろしたオリジナルストーリー。約20分×8話の構成で、6人の人生が描かれていく。燃え殻がこれまでに描いてきた物語と同じく、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』にも、“リアル”が詰まっている。そのため、簡単に夢は叶わないし、愛は永遠に続かない。シビアな設定にもかかわらず、彼の作品にいつも“希望”を感じるのはなぜだろう。欲しいものをつかめなかった“挫折”を、ごく普通のものとして描いているからだろうか。
もちろん、登場する6人のキャラクターたちは、かなり鬱屈とした人生を歩んでいる。まず、役者を目指すも夢なかばで諦めてしまった荻野を演じたのは、成田凌だ。17歳の荻野と、27歳の荻野は、どちらも“陰”寄りのキャラクター。クラスのリーダー格の男子に睨まれてひよっていたし、上司にもヘコヘコしている。しかし、“瞳”の演技で10年の歳月を表現していたのが印象的だった。17歳の時の彼は、自信なさげではありながらも未来に希望を抱いている目をしていた。どこか、潤んでいるような。その一方で、27歳の萩野の目には、生気がない。成田が実際に演じたのは、17歳と27歳の姿だけだが、その間の“10年”を想起させる奥行きのある芝居に、胸を打たれた。
そして、アイドルを夢見て上京するも、故郷に舞い戻ってきたゆか役に、伊藤沙莉。ゆかがメインとなる第2話では、“自分はほかの人とはちがう”と信じてやまない彼女が、新たな生き方を模索していく姿が描かれる。人は、成功したら「諦めなかったからだよ!」と褒めてくれるが、失敗すると「早く諦めればよかったのに」という目をしてくるものだ。「もしも、あの時……」と後悔した経験がある人には、刺さる回になっている。
そのほかにも、藤原季節、上杉柊平、前田敦子ら、かつて17歳だった俳優陣が、あの頃の私たちの気持ちを、繊細に表現してくれている。役者、アイドル、小説家、バンドマン……何者かになりたくて、何者にもなれなかった6人。現実を知り、夢を叶える人生から降りたあとも、それぞれの日々は続いていく。あの頃のような無垢な気持ちを失ってしまっても、私たちはこの世界に希望を見出さなければならないのだ。6人が、“平凡だけど退屈じゃない”未来を掴み取ったように。
人生に疲れた時には、またこの作品に戻ってこようと思う。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』には、「俺たち、頑張ったよね」と背中をさすってくれる仲間が待っているから。この物語は、私たちの“帰る場所”になってくれる。
■配信情報
Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(全8話)
Huluにて全話独占配信中
主演:成田凌、伊藤沙莉、藤原季節、上杉柊平、前田敦子、田中麗奈
原作:燃え殻
原作協力:萩原健太郎
脚本:藤本匡太、燃え殻、萩原健太郎
監督:萩原健太郎
テーマ曲:キリンジ「エイリアンズ」(WARNER MUSIC JAPAN)
音楽:白戸秀明
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
製作著作:HJホールディングス
(c)HJホールディングス
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/anatanikikasetai/
公式Twitter:@aku_Hulu