黒島結菜×竜星涼の純粋性が『ちむどんどん』の鍵 “善の心”がおかしく見えてしまう哀しさ
黒島結菜も竜星涼も全身全霊で演じる俳優なので心強い。元気はつらつな演技はときにうるさくなってしまう心配もあるが、ふたりは新人ではなくキャリアも積んでいるため、行きすぎないバランスをとることもできる。
いまのところ、黒島演じる暢子が純粋性を成功の方に向ける役割で、竜星演じる賢秀が純粋性を失敗の方に向ける役割を担っているように見える。賢秀は、お調子もので、明るさがいいところではあるが、ものごとが長続きしない。母・優子が朝昼晩と働いているにもかかわらず助けて働こうとしないというか働いても長続きしない。すぐになまけ癖が出てしまうのは子どもの頃から変わらない。
男たるものドカーンと大きなことを成し遂げようという思いばかりが先走る賢秀にあやしい投資話が持ちかけられた。沖縄がアメリカから日本に返還されるにあたりドルから円に通貨も変わる。それに乗じた投資の話は夢のような好条件であやし過ぎるが、賢秀はまんまと乗って960ドルもつぎ込んでしまう。元手は優子が出している。子どもたちに、やりたいことをやったうえで成功も失敗も自分で責任をもってほしいと彼らの自主性を大事にしているとはいえ、優子の迂闊な行為は信じがたい。おそらく優子は世間知らずな面もあるのだろう。すなわち、隣人を騙す人のいない世界で生きてきた、あるいは隣人を騙すことなんてありえないと優子は考えているのではないか。そんな親に育てられた暢子は、ヤング大会のライバル(池間夏海)にもおいしいものを作るうえではあくまで公平な気持ちで向き合っていた。
純粋な善の心が存在していることは、本当は素敵なことだ。にもかかわらず、彼らの言動がおかしく見えてしまうことは実は哀しいことかもしれない。信じること、善意を貫くことこそ人間の持つ力。比嘉ファミリーは人間が失いかけている善意を持ち続ける極めて希少な存在だ。偏見や差別や嘘や搾取にまみれ、他人を陥れる人たちがたくさんいるなかで、比嘉家は大事なものを守り抜けるだろうか。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK