『私たちのブルース』幸せを見つけた二人 傷を負った大人たちが“絆創膏を貼り合う”物語に

『私たちのブルース』大人が励まし合う物語に

 オムニバス形式で始まった『私たちのブルース』(Netflixで配信中)。済州(チェジュ)を舞台に14人の登場人物が8つの物語を繰り広げる。はじめのエピソードは、鮮魚店の社長チョン・ウニ(イ・ジョンウォン)とウニの初恋の人チェ・ハンス(チャ・スンウォン)の話だ。2人は20年ぶりの再会を果たし、ハンスから旅行に誘われたウニは、周りが気づくほど浮かれていて…...。

 木浦(モッポ)は、修学旅行で行った場所だ。ウニがハンスの唇を奪ったあの階段、5人で2つの綿あめを奪い合う高校生のウニとハンスたちが目の前を駆け抜ける。しかし、この“思い出巡りの旅”はハンスとの楽しい時間だけにはならなかった。

 お互いに貧しい家庭に育ち、夢を諦めた過去を語り合う2人。ウニはいつの間にか愛よりお金を選ぶようになり、ハンスは家族のために惨めな人生を送っている。今は一人ひとつの綿あめを買えるようになったのに、どこか味気ないのは“自分の幸せ”がわからなくなっていたから。5つ星ホテルのふかふかのベッドに寝転がったウニが思わず涙を流したのは、どれだけ自分を労わってこなかったのかに気づいたからだろう。

 そんななか、唯一大切にしてきたのがハンスとの思い出なのだ。結局、ハンスがお金を借りようとしていたことがウニの耳に入ってしまうが、ハンスの口から「お金を貸してほしい」とは一度も言われてはいない。ハンスはウニと一緒にいればいるほど、自分にとっても大事な思い出であり、傷つけたくない存在だと気がついたからだ。

 お金の貸し借りが発生した途端に関係性がこじれるのはよく聞く話である。でもそれが成立してしまうのが、済州で暮らすウニと仲間たちなのだ。ウニがハンスにお金を送ったのは、ハンスがウニの青春と友情を守ろうとしたように、娘の夢を守りたいハンスを助けただけの話なのかもしれない。ウニにとって、それが友達だから。

 ハンスは夢を諦める悔しさを知っているから、娘には夢を追い続けてほしかったのだろう。同時に夢を諦めることが不幸せなことだとも決めつけていた。けれど、済州に戻りウニと再会したことで、貧しくても夢を諦めても笑っていたあの頃の自分に出会い、幸せになれる方法が他にもあることを思い出したのだ。

 これは2人が一緒に幸せになろうという話ではない。たくさん傷を負ってきた大人たちが「私たち頑張って生きてきたよね」と絆創膏を貼りあってお互いを励まし合った物語である。一人で歌うウニの姿に切なくなったけれど、愛よりお金を選んでいた自分とサヨナラをして、自分の幸せを見つけにいくウニを応援しようではないか。

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