ミレニアム世代の教科書 『NYガールズ・ダイアリー』で描かれる、人生の転機と苦悩
夢を再確認し、追いかける20代
酒浸りの母に育てられたサットンは、全て自分でどうにかしようとするしっかり者。昔からファッションが好きだったが、なんとかお金を稼ぐために一時的に代理アシスタントとして「スカーレット」に携わり始める。そして採用期間が終わった後も「スカーレット」で働き続けられることになり、いつからか仕事が、彼女の生きがいにすらなっていく。
シーズン1では、編集担当のローレン(エミリー・チャン)のアシスタントとして働いていたサットン。既に3年間その場所で働いていたが、キャリアの行く先は見えず、お金もなく、漠然とした不安を抱えていた。
そんな中、ファッション部門でスタイリストのアシスタントを募集していると耳にする。昔から服作りやスタイリングが得意だったサットンは応募し、紆余曲折ありながらも見事その座を獲得することになった。
この出来事が既に大きな一歩だが、彼女にはもう一つ、心に残っている夢があった。それは服を自分でデザインすること。スタイリストとしての仕事ぶりが評価され、デザイナー学校へ推薦をしてもらい、仕事と両立しながら通うことになる。周りには「夢に燃えてる年頃なのね」と嫌味を言われることがあっても、「真剣にキャリアアップを考えている」と胸を張って言い返すことができるところに強い想いが見える。本気で恋に仕事に勉強に、全てをこなしながらも充実している彼女の姿はこちらも応援したくなる。
今まで母親やお金のことで仕方なく選択してきた人生から一変、大人になりやっと自分がやりたい夢に一歩ずつ進んでいる彼女は本当にキラキラしていて、羨ましく思う。20代、まだまだ自分のやりたい事を探している人も多いのではないだろうか。他人にとらわれず自分の人生を生きること、これこそ大人になるということなのだろう。
自身のアイデンティティの模索
「スカーレット」ではソーシャルメディアディレクターとして、若くして地位を獲得したキャット。正義感が強く、間違っていることは間違っていると主張する性格から、ニューヨーク市議選に出馬するまでに至っていた。
彼女のキャリアももちろん素晴らしいものだが、シーズン1で自分の性的指向について新たな発見をすることになる。写真家のアディーナ(ニコール・ブーシェリ)と出会ったことで、彼女の人生は変わったと言って良いだろう。
クィアコミュニティーが集うバーが、再開発のために立ち退きを余儀無くされているという事実を知り、資金を募るためにプロム風パーティーを開いたり、自分の人種や性的指向の経験を用いつつ自分の弱みをあえて発信するなど、「スカーレット」のSNSディレクターとしても世の女性への影響力は高い人物だ。白人と黒人の両親の間に生まれ、自分のアイデンティティとは何なのか、ずっと模索して来たキャット。全編を通して、視聴者も一緒に彼女の本質を理解し、成長を見守ることができる。そして観ている自分自身はどうなのか、ふと我に返って考えさせられる。
彼女たち3人の人生の転機は、誰もが経験するようなとても身近な悩みを題材に描かれており、共感しやすい場面が多い。『セックス・アンド・ザ・シティ』よりも、よりキャリアや20代の悩みにフォーカスしている印象だ。
他にもLGBTQ+の恋愛、乳がんなどの女性特有の病気への向き合い方、結婚の価値観、セックスに対する男女の考え方などが描かれており、このドラマこそまさに女性のための教科書のよう。リアルな現代の社会問題に向き合っている内容なだけに、今後の展開もより期待できる作品だ。
■配信情報
『NYガールズ・ダイアリー 大胆不敵な私たち』
Hulu、Netflixほかにて配信中
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