去る者と残される者の“生きる姿” 優しさに満ちた『39歳』が穏やかに迎えた最終話

去る者と残る者の生きる姿を描いた『39歳』

 来年の夏に公開される映画、母親の誕生日……。チョン・チャニョン(チョン・ミド)が二度と迎えることができないものだ。20年来の親友チャ・ミジョ(ソン・イェジン)とチャン・ジュヒ(キム・ジヒョン)のように、今もなお胸が張り裂けそうな思いでチャニョンを見つめていた、Netflixで配信中の韓国ドラマ『39歳』第9話・第10話。

 いつの間にか3人の中にいても馴染んでいるミジョの恋人キム・ソヌ(ヨン・ウジン)。今やミジョを想う熱量が、チャニョンやジュヒに負けていないからだろう。実母に会った後、深く傷ついて言葉を詰まらせたミジョに「つらいなら後で話そう」と優しく声をかけるソヌも、「何て言われたの?」とミジョ以上に怒るチャニョンも、かける言葉を一生懸命探して空回りしているジュヒも。ミジョにとって、誰一人と欠かせない存在だ。


 「毎日が惜しい」「君と過ごすすべての時間が大事だから」。チャニョンが病気を打ち明けてから今まで、大きく取り乱さず、肩を震わせ何度も静かに涙を流してきたキム・ジンソク(イ・ムセン)。その姿が余計に涙を誘うこともあったが、チャニョンとの関係に一番後悔をしているジンソクが感情を抑えていることに疑問もあった。しかしそれは、10年もの間、チャニョンを苦しませていた臆病で卑怯な自分を恨んでいたのだ。だから堂々と泣くことも自分が許さなかったのだろう。結局、私たちは誰のことも責められない。母親にチャニョンとの交際を反対されたことも、妻のソンジュ(ソン・ミンジ)との関係も、選択してきたのはジンソク自身なのだから。

 そんな中、チャニョンが自分の納骨場を予約しに行く過酷な誘いができる相手はジンソクだった。それに対して、「すごく悩んだんだよな」と手を取ったジンソクは、今この瞬間もこれからも、誰かをそして自分を責めずに生きる道を選んでいくだろう。

 今の状況を説明するならば、目が合っただけでも涙がこぼれ落ちそうな状態。チャニョンが自虐的な言葉を吐けば時が止まるし、あえて避けたところで深刻さが増す。どんなに楽しい時間も悲しみが消えるわけではない。その時間が幸せであればあるほど、「受け入れよう、受け入れたくない」が永遠に交差する。チャニョンの母親の誕生日ケーキを営業時間内に取りに行けなかった3人があり得ない行動をとったのは、熱い友情による美談ではない。最愛の母親へのメッセージが書かれた、母親が好きな抹茶味のケーキ。このケーキを“今日”届ける手段がお店の窓ガラスを割っただけのこと。それほど切実なのである。

 一方で、ジュヒがミジョに抱えていたのは「チャニョンがいなくなったら上手くやれるか怖い」という不安。親友3人とは、時に1人が疎外感を感じてしまうこともあれば、3人だからこそバランスが保てている面もある。ミジョとチャニョンが自分を頼ってくれないジュヒのもどかしさ、負担をかけたくなかったミジョ。長年一緒にいるからといってすべてを知っているわけではない。すれ違うことだって往々にしてある。特に3人は、家族のような近すぎる距離感が本心を見えなくさせていたのかもしれない。

 ミジョたちには「お母さん」と呼ぶ人が3人いる。伝え難い真実とミジョに申し訳なく思う気持ちを1人背負っていたジュヒの母親、よく食べてよく寝て来年の夏を迎えればいいと言えるチャニョンの母親、いつも一番に受け入れてくれるミジョの母親。それぞれの「お母さん」にとっても3人は娘同然だ。ジュヒの母親が耐えた長い月日が、ミジョたちの幸せな時間を守るためだったのだから。

 本作では、家族の闇の一面も描かれている。妹のソウォン(アン・ソヒ)の養子縁組を解消し、ミジョにも偏見の目を向ける父親が許せなくて苦しむソヌ。自分を愛してくれている家族がいても、実母との縁を切ることはできないミジョ。血の繋がりは時に残酷であることを思い知らされる。

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