味方良介、新内眞衣らによる春の風物詩 『新・熱海殺人事件』で交差するフィジカルな言葉
今年もまた、『熱海』の季節がやってきたーー。
故・つかこうへいの代表作であり春の風物詩となっている『熱海殺人事件』が、『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』として、メッカである新宿・紀伊國屋ホールにて上演された。味方良介が5度目の座長を務め、高橋龍輝、一色洋平、乃木坂46を卒業したばかりの新内眞衣が配された座組によって、本作はまた新たな息吹を得たのだ。
乃木坂46卒業後、これが初の舞台出演となった新内眞衣。そこまで演技経験が豊富だというわけではない彼女だが、これまでに『墓場、女子高生』(2016年)や『続・時をかける少女』(2018年)などの舞台作品への出演経験があり、この『熱海殺人事件』に挑むのは、昨年上演された『熱海殺人事件 ラストレジェンド 〜旋律のダブルスタンバイ〜』に続いて2度目だ。本作のヒロインでもある婦人警官・水野朋子として再び紀伊國屋ホールの舞台に立ち、座長の味方とは再タッグとなった。
だからだろうか。踏んできた場数が違う他の三者と比べれば多少のたどたどしさは否定できないが、演じている本人には自信が感じられた。味方との息も合っている。長いことアイドルとして人前でパフォーマンスを展開してきた経験は彼女の武器なのだろうし、身を翻すような場面ではやはり誰よりも強い輝きを放つ。つか作品特有の膨大なセリフ量と、熱情がほとばしる板の上でのぶつかり合いーーまだ短い演技キャリアの中で同じ役を再び演じられたこと、何より俳優としての総合的な力が求められる『熱海殺人事件』の厳しさに揉まれた経験は、またさらなる自信へと繋がるのではないだろうか。俳優業の面でこれから彼女がどういった活動を展開していくのかは分からないが、アイドル卒業後すぐにこういった環境が用意されているのは恵まれている。来春の水野朋子役にはニューフェイスの登板も期待したが、新内の3度目の闘いも観たいものである。
この物語の舞台である東京警視庁捜査一課に富山県警から転任してきた熊田留吉刑事を演じたのが高橋龍輝で、一色洋平が扮したのはここで捜査される殺人事件の犯人・大山金太郎だ。この二人に関しては基礎力が圧倒的に違う。声量、アクション・リアクションの正確さ、舞台上での身の置き方、いずれも申し分ない。高橋は『仮面ライダーフォーゼ』(2011年〜2012年/テレビ朝日系)での活躍や、故・堀禎一による傑作映画『魔法少女を忘れない』(2011年)で主演を務めた経験、『ミュージカル テニスの王子様』では主人公の越前リョーマをたびたび演じ、『新・幕末純情伝』や『広島に原爆を落とす日』などのつか作品に参加し経験を積んできた。一色は、良質な小劇場作品から商業演劇、テント芝居に参加すれば2.5次元ミュージカルにも出演し、一人芝居もこなすなど、演劇の世界を縦横無尽に駆ける存在。この5月には、つか作品『飛龍伝2022 〜愛と青春の国会前〜』で主演を務めることにもなっている。両者ともに感情の転換が素早く巧みで、どんな瞬間でも冷静でいるように見える。感情的になるシーンでも決して観客を置いていくような熱演に堕することはない。ユーモアとシリアスを滑らかに往還し、本作の持つエンターテインメント性に強度を与えた。アドリブのシーンでも、舞台上の空気に観客をもうまく巻き込む余裕(というと、やや語弊があるかもしれないが……)が感じられたものである。