菅田将暉と小松菜奈が“人生”という旅路を体現 映画『糸』中島みゆきの歌詞が示唆する未来

『糸』中島みゆきの歌詞が示唆する再会の日

 長きにわたる日本映画史を振り返ると、ある楽曲をテーマにして製作された作品をいくつか挙げることができる。例えば、昨年大ヒットを記録した『花束みたいな恋をした』(2021年)の監督を務めた土井裕泰は、過去にJ-POPのスタンダードナンバーをテーマにした2つの作品を世に送り出している。妻夫木聡と長澤まさみが主演を務めた『涙そうそう』(2006年)も、新垣結衣と生田斗真が主演を務めた『ハナミズキ』(2010年)も、ともに公開当時に大きな話題を呼んだ作品なので、記憶に残っている人は多いと思う。

 また近年も、『愛唄ー約束のナクヒトー』(2019年)や『小さな恋のうた』(2019年)など、J-POPの楽曲から物語の着想を得た作品が次々と生まれており、その系譜に連なる作品の一つが、3月29日にTBS系で地上波初放送される『糸』(2020年)である。

 今作は、1992年にリリースされた中島みゆきの同名曲にインスパイアされて生まれた物語だ。主人公は、平成元年生まれの高橋漣(菅田将暉)と園田葵(小松菜奈)。2人のめぐり合いの奇跡を、約30年にわたる平成史に重ね合わせながら描き出していく。この物語のテーマは、決して、主人公2人の「恋愛」だけではなく、その先へと長く続いていく「人生」の重みと深みである。

 ネタバレにならないように詳細な記述は避けるが、運命的な出会いの先に2人を待ち構えているのは、残酷なすれ違い、そして、それぞれ別々に歩み始めた人生における喪失や挫折であり、その意味で、今作を単純なラブストーリーとしてカテゴライズすることは適切ではないかもしれない。今作は、時にビターな味わいすらも感じさせるヒューマンドラマであり、酸いも甘いも知る大人の観客こそ、より堪能できる作りになっていると思う。

 それでは、こうした重みと深みのある物語が生まれるきっかけとなった「糸」とは、いったいどのような楽曲なのだろうか。歌詞を見ていくと、<私>と<あなた>、つまり<ふたつの物語>が交わることを示唆する内容となっていることが分かる。しかし、いつ交わるかについては楽曲の中では明言されていない。その<いつか>が訪れる日を信じて、迷い、傷付きながら、それでも懸命に自分の人生を生きていく。この曲が描き出しているのは、そうした果てしないほどに深い<あなた>への想いであり、来たるべき再会の日に向けた透徹な祈りだ。

 中島みゆきは、今作に次のコメントを寄せている。

「糸」 は、とても素朴な曲ですから、いろいろな方々に歌っていただく度に、さまざまな色があらわれて、いつも驚かされています。この度は映像の世界に用いていただくこととなり、ありがとうございます。また新たな「糸」に出会えるのを、楽しみにしています。

中島みゆき ※1

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