レオス・カラックス、新作『アネット』を語る 「僕が父親になってからの映画だと思ってる」 

レオス・カラックス、『アネット』を語る

 4月1日に公開される『アネット』の監督を務めたレオス・カラックスのインタビューが到着した。

レオス・カラックス

 『汚れた血』『ポンヌフの恋人』などを手がけてきたカラックス監督8年ぶりの新作映画となる本作は、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールを主演に迎え、カラックスが初めて全編英語でミュージカルに挑んだ“ダーク・ファンタジー・ロックオペラ”。第74回カンヌ国際映画祭でオープニングを飾り、監督賞を受賞した。

 「息すらも止めて ご覧ください」というカラックス自身の声によるリクエストとともに始まる本作のオープニング。カラックスはこの鮮烈なオープニングについて、「他人といる時に、なるべく息をしないようにする時代。これも、生と死だ」と、このコロナ禍で『アネット』が公開されることになった今、本作にまた新しい意味が加わったことを伝える。

 カラックスにとって初のミュージカル映画でもある『アネット』。本作を作る上で参考にした過去のミュージカル作品について問われると、「(本作の原案・脚本を手掛けた)スパークスから最初の曲と説明を聞かされた時、一つの大きな懸念があった。主人公の男はスタンダップコメディアンなのに、彼の芸がどんなものか全然思い浮かばなかった」と告白。しかし、「子どもの頃かもう少し後になってから、フランスで何度かスタンダップコメディを見たことがある。 あとは両親の影響で、ずっとトム・レーラーが好きだった。彼は数学の先生だったけど、1950年代になってピアノの弾き語りでスタンダップを始めた人だった」「彼の歌はすごく風刺がきいていて、実際、少しスパークスみたいな感じだ。僕の最初の映画の<モーツァルトが僕の歳だった時には、もう死後2年が経っていたと思うとぞっとする>というセリフは彼から盗んだ」と語る。そして、「『アネット』でも彼の歌を少しだけ使った。今回は許可をとってね。あとはレニー・ブルースとアンディ・カウフマンも知ってた。彼らや、リチャード・プライヤー、スティーヴ・マーティンらの自伝を読んだけど、中には舞台の前にパニックになって嘔吐する人もいる。客を笑わせなければいけないと思いながら舞台に上がるのは…それは恐ろしいだろうね。僕がカンヌの舞台に無理やり上げられて…裸になるようなもんだよ」と思い返した。

 その上で今回の『アネット』については、「二つのテーマがあった。まずはオペラ。音楽と気品とともに舞台上で死ぬ女性。それにスタンダップ。こちらはグロテスクで――、偉大なコメディアンが演じるのを見れば分かるように、自己を破壊するほど挑発的なんだ」と言う。そして、スパークスやドライバー、コティヤールらが歌う「So May We Start?」で始まるオープニングのシーンについては、「映画というよりは、むしろこの映画の特殊な形式についてのイントロだね。(スティーヴン・)ソンドハイムの偉大な『Invocation And Instructions To The Audience』を参考にした。それにオペラの伝統的なプロローグ、特に美しいバルトークの『青ひげ公の城』も」と言う。

 カラックスは前作『ホーリー・モーターズ』についても言及。今回の『アネット』のオープニングにも自身が出演していることに関しては、「今度もまた娘と一緒だ。このシーンは僕と娘と愛犬のために考えた(犬はLAまで連れていけなかったけど)」と振り返り、「『ホーリー・モーターズ』では映画の冒頭で娘と一緒に出ることが重要だった。たぶん自分に自信を持たせるために。何年も映画を撮っていなかったから、小さくて実験的なホーム・ムービーを作ろうとした。僕の中ではこの2本は実験映画なんだ。『アネット』は大きな映画、『ホーリー・ モーターズ』は小さい映画。この2本は“僕が父親になってからの映画”だと思ってる」と明かす。実験的な『ホーリー・モーターズ』と比べて、『アネット』は「おそらく僕の他のどの作品よりも」古典的なストーリー・アーク(※1つの話をいくつかに分けて伝えること)であるとする。その理由としては、「理由はスパークス。このダークなおとぎ話 を持ってきたのは彼らだから、僕はそれを尊重した」とその違いを述べた。

 最後に『ホーリー・モーターズ』の終盤でカイリー・ミノーグが子どもを持つことについて歌っていたことについて問われると、「正しくは子どもを失うことについてだね」と言う。「映画のために歌詞を書いたのはあれが初めてだった。作曲はディヴァイン・コメディのニール・ハノン。とてもいい経験で、ミュージカル制作に一歩近づけた。僕はいつも、誰かに音楽を書いてもらっても、それを気に入らなかったらどうしようかと心配していた。でもすごく気に入る曲ができて、カイリーの撮影も素晴らしかった。おかげで自信が持てたんだ」と思い返した。

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■公開情報
『アネット』
4月1日(金)ユーロスペースほか全国ロードショー
監督:レオス・カラックス
原案・音楽:スパークス
歌詞:ロン・メイル、ラッセル・メイル&LC
出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤールほか
配給:ユーロスペース
上映時間:140分
(c)2020 CG Cinema International/Theo Films/ Tribus P Films International/ARTE France Cinema/UGC Images/DETAiLFILM / Eurospace/Scope Pictures/Wrong men/Rtbf (Televisions belge) /Piano
公式サイト:annette-film.com

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