『ウエスト・サイド・ストーリー』で見つめ直すアメリカ 物語本来の人種構造とその対立

スピルバーグが見つめ直すアメリカ

 スピルバーグ版が1961年版と無縁でいられないのは、アニータを演じ、プエルトリコ系として初めてアカデミー賞に輝いた御歳90才のリタ・モレノを再び招いていることだろう。雑貨店主ドクは既に亡く、プエルトリカンである妻ヴァレンティーナが店を切り盛りしている。彼女が恋人たちのラブソングであった「Somewhere」を、いつかどこかで異なる者同士が共存できると歌うシーンは、この街にかつて異なる恋人同士による愛の物語があったことを想起させ、語られることのないプエルトリコ系移民の苦難の歴史は、奇しくも同時期に近隣で撮影されていたリン=マニュエル・ミランダ原作『イン・ザ・ハイツ』に登場した老婆アブエラの姿を引き寄せた(ミランダが『ウエスト・サイド物語』から大きな影響を受けているのは言うまでもないだろう)。そんなモレノが犯されるアニータを救うべくより断固たる姿勢で少年たちを断罪する場面は、まるで未来のアニータが時を遡って自分を助けようとしているようにも見えた。

ウエスト・サイド・ストーリー

 終幕、1961年版同様、少年たちはトニーの亡骸を運んで退場するが、それを導くかのようにマリアが随伴し、その後ろでは憐れなチノの肩をヴァレンティーナが抱く。かつてウエスト・サイドにあった対立と悲劇の物語を知るこの気丈な老婆は誰も排除しない。スピルバーグはリタ・モレノを精神的支柱とすることで、2021年にこの普遍の物語を語り直しているのだ。

 スピルバーグが再びクシュナーとタッグを組む次回作『The Fabelmans(原題)』は、なんとスピルバーグ自身の半自伝映画という。彼らが安易に過去を振り返るだけのノスタルジックな映画を撮ることはないだろう。スピルバーグの半生を通じて時代の奔流に立ち、アメリカを見つめ直すのではないだろうか。

■公開情報
『ウエスト・サイド・ストーリー』
全国公開中
製作:監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
振付:ジャスティン・ペック
指揮:グスターボ・ドゥダメル
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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