『妻、小学生になる。』は“生まれ変わり”ではなかった 石田ゆり子が語りかけていた願い

『妻小学生』は生まれ変わりではなかった

 しかし、ここで思い出したいのは「イクラ丼」の話だ。麻衣の恋人・蓮司(杉野遥亮)は、大好きでおいしいイクラ丼を食べるとき、「あー、もう少しでなくなっちゃう、なくなっちゃうって思いながら食べてたら、せっかくのうまいイクラ丼の味、わかんなくない?」と話していた。

 残念ながら幸せな時間は永遠ではない。このまま時間が止まればいいのに、と願う瞬間こそ、すぐに過ぎ去ってしまう。それは、まぎれもない真理だ。しかし、だからこそ、その終わりを意識するあまり、目の前にある幸せを感じられないのは本末転倒だということ。

 出会わなければ、別れの悲しみもない。でも、別れや悲しみを恐れるあまり、ゾンビになって出会いを避けては、どうして幸せな人生にすることができるだろう。貴恵が圭介たちの元へと帰ってきたのは、彼らに「もう一度幸せを求めてほしい」と願ったからだ。

 きっとこの思いは大切な人を遺して、この世を去ることになってしまったすべての人に当てはまるのではないだろうか。自分の死をきっかけに、これからの人生を棒になんて振ってほしくない。できることなら、自分との楽しかった日々を、愛しい時間を心の糧に、幸せに生きてほしいと願って、人は旅立つのではないだろうか。

 でも、どんなに強くそう思っていたとしても、そのメッセージを生者に伝える術はない。寺カフェのマスター(柳家喬太郎)のように、みんながその姿を見ることができればいいのだが、そうもいかない。ただ、その生前の姿かたちでこの世を彷徨っているかどうかを知ることはできないとしても、語りかけてくれる声は、故人を思い続けている限りすぐにでも聞こえてくるような気がする。「私がいなくても、自分の力でしっかり生きて」「信じてるから」と。

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、神木隆之介、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
音楽:パスカルズ
主題歌:優河「灯火」
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

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