『リメンバー・ミー』は単調な“家族愛”の物語に収まらない 多角的に描写される“死”

『リメンバー・ミー』で多角的に描写される死

 ピクサー・アニメーション・スタジオによって制作された映画『リメンバー・ミー』。当時劇場に足を運んだ人の中には、マリーゴールドのようなオレンジ色の斜光に包まれ、奏でられる優しい歌に涙した人も多いのではないだろうか。

 音楽の才能を持つ主人公・ミゲルはミュージシャンを夢見ているが、過去のとある出来事が理由で、彼の一族には「音楽を奏でることは禁止」という掟があった。伝統的な祝日である「死者の日」が迫る中、ミゲルは憧れのミュージシャン、デラクルスの霊廟に飾られていたギターを手にして、死者の国へと迷いこんでしまう。恐ろしい世界かと思いきや、そこはカラフルで楽しく、夢のような世界だった。

 陽気な作風の中に家族の絆が生むドラマチックなストーリーを織り交ぜ、第90回アカデミー賞で長編アニメ映画賞と主題歌賞にノミネート、見事受賞を果たした。『トイ・ストーリー3』で同じくアカデミー賞を受賞したリー・アンクリッチ監督が手掛けたともあって、温かな感動が胸を打つピクサー屈指の傑作となっている。

 ここではそんな『リメンバー・ミー』をディズニー映画または他のピクサー映画と比較し、クリエイティブのプロフェッショナルたちが現代に伝えようとしているテーマを掘り下げていこうと思う。

 ディズニーやピクサーの作品はしばしば「死」を描く。それは初期の作品から今に至るまで続いており、ある研究者の調査によると、両スタジオが手がけた幼い子ども向けの映画の80%以上が「死」を描写しているという。

 その中で、ストーリーテリングとしての「死」というものにまずは注目してみたい。物語の起承転結を担い、主人公たちが動き出すトリガーとなる「死」についてだ。

 『アナと雪の女王2』では、主人公である姉妹の姉・エルサの魔法はどこから授かったのかという疑問を軸に、ルーツをたどる過程が描かれている。その秘密には両親が大きく関わっており、彼らはエルサたちがまだ幼い頃に水難事故で亡くなっている。エルサと妹のアナは両親が乗っていた沈没船にたどり着き、秘密についての大きな手がかりを得る。

 『ベイマックス』の主人公・ヒロとその兄タダシは物語が始まる前から既に両親を亡くしている。その上、天才的なロボット工学の頭脳を持つ弟を飛び級での大学入学へと導こうとしていたタダシは、ある日大学で起きた火事に巻き込まれ、帰らぬ人となる。タダシ亡き後、彼の死に心を痛めていたヒロだったが、その死をきっかけに物語が大きく動き出すことになる。

 そして『リメンバー・ミー』では、死者と生者の邂逅を描き、決して交わることのない両者が「死者の日」をきっかけに出会い、子どもも楽しめるような単純明快さを失わないまま、家族の絆や命の理といった重大なテーマに根差していく。

 夢と希望、そしてイマジネーションといったカンパニーの信条はそのままに、あえてシリアスなトピックスである「死」を物語に織り込ませることによって、映画を観ている子どもたちへの情操教育になることはもちろん、大人も改めて「死」について考えるきっかけになる。映画を観ることによって「死」の対処を学び、深い思考をもってしていつか来る終わりについてを家族や友人たちとディスカッションできるのだ。

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