『クール・ランニング』に溢れるエンタメ精神 数少ないオリンピック映画の快作に
だからと言って薄っぺらに事象を並べるだけというわけではない。たとえば選手のひとりであるジュニアと彼の父のエレベーター前でのやり取りであったり、時にいがみ合いながらも友情を築いていく選手たちの関係性であったり、そうした必要な範囲のドラマは無駄なく構築される。その上で見どころとなるボブスレーの疾走感。見切り発車で始めた競技を通し、主人公たちが自分たちがジャマイカ人であるという誇りを力に変えて、奇異の目にさらされながらも突き進んでいくさまは勇気に満ちている。もちろん映画的に脚色されたクライマックスには、ボブスレーという競技への敬意が描かれる。縁もゆかりもなかったものであっても偶然に出会ってしまった以上、真摯に向き合う。そして競い合う他の国の選手たちは決して敵ではなく、互いを高め合う存在である。そうした崇高なオリンピック精神は、この映画にはしっかりと生きている。
カルガリーオリンピックの公式記録映画である『Cargary’88: 16 Days of Glory(原題)』では、開会式のシーンで一瞬だけ本物のジャマイカ選手団の姿を確認することができる。また、さまざまな競技の選手をピックアップして描かれる3時間半の中で、中盤にボブスレーがフォーカスされる。そこに記録されているのは東ドイツとスイスが繰り広げた金メダル争いの様子で、ジャマイカ選手団は映らない。それでも映画で描かれた大会の雰囲気をリアルに確認することができるのはなかなか興味深いものがある。しかも同作中にはボブスレーの歴史を説明する過去のアーカイブ映像も含まれており、やはりこの年にボブスレーへの注目が一気に高まったことが窺える。
ジャマイカ選手団はカルガリー以降、ほぼ毎年のように(2006年のトリノを除き)冬季オリンピックに参加している。劇中の最後のテロップで説明されたようにアルベールビル・オリンピックにカルガリーの時のチームが帰ってきたように、参加記録を確認すればそのほとんどが男子ボブスレー(4人乗り・2人乗り)と、すっかりジャマイカのお家芸となったようだ。2010年のバンクーバーではスキークロスの選手が、前回のソチではボブスレー女子(2人乗り)や男子スケルトンの出場者がおり、着実に常夏のジャマイカにもウィンタースポーツが広まっているのだろう。そして今回の北京オリンピックには、長野オリンピック以来24年ぶりに男子ボブスレー(4人乗り)にジャマイカ代表が出場する。
■放送情報
『クール・ランニング』
日本テレビ系にて、2月11日(金)22:00~23:54放送
出演:リオン、ダグ・E・ダグ、ロール・D・ルイス、マリク・ヨバ、ジョン・キャンディ
監督:ジョン・タートルトーブ
製作:ドーン・スティール
脚本:リン・シーファート、トミー・スワードロー、マイケル・ゴールドバーグ
ストーリー:リン・シーファート、マイケル・リッチー
製作総指揮:クリストファー・メレダンドリ、スーザン・B・ランドー
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