『クール・ランニング』に溢れるエンタメ精神 数少ないオリンピック映画の快作に

 現在開催中の北京オリンピックには、アルペンスキー競技にサウジアラビアとハイチが1名ずつ出場し、両国にとっては今回が冬季オリンピック初参加となる。一般的に砂漠のイメージが強いサウジアラビアだが、北部地域では標高も高く冬には降雪が見られる。一方カリブ海に位置するハイチはAw(サバナ)気候の国。東南アジアと同じように雨季と乾季があり、1年で最も寒い月でも平均気温18度以上の熱帯地域のため雪は降らない。他にも参加国・地域を見渡せば、いくつか“雪の降らない”常夏の国・地域の名前が見受けられる。そこにはジャマイカもあり、これら常夏の国・地域の中でこの国だけはすっかり冬季オリンピックの常連国といった印象だ。

 オリンピックを題材にした作品――いわゆる公式記録映画を除いた劇映画は意外と少ない。しかも登場人物が元オリンピアンであったり、スポーツ選手の半生をたどるなかでひとつの事象として描かれたり、もしくは『ミュンヘン』や『リチャード・ジュエル』のように競技場の外で繰り広げられた事件に触れる場合の方が多く、昨年公開された『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』のように正面からオリンピックの逸話にフォーカスした作品というのは滅多に出会えない。2月11日に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送される、1988年に行われた(当時は夏季と冬季が同じ年であった)カルガリーオリンピックで冬季初参加を果たしたジャマイカ代表の逸話を描いた『クール・ランニング』は、その少ない中でもひときわイレギュラーに、むしろ本来オリンピックは映画でこう扱われるべきだと思うぐらいエンターテインメントに徹した快作だ。

 ソウル・オリンピック(改めて説明するまでもないと思うが、1988年に行われた夏季五輪である)への出場を目指していた陸上選手のデリースは、選考会で転倒に巻き込まれて夢を断たれてしまう。元金メダリストである父に続きたいという思いで選考会をもう一度やってもらえないか働きかけるデリースは、偶然父がアメリカ代表の選手と一緒に写っている写真を見つける。その選手がボブスレーの元金メダリストで、現在はジャマイカに住んでいることを知ったデリースは、ボブスレーという競技を知らないにもかかわらずボブスレーでオリンピックに出場することを思いつき、仲間を集めることに。

 実際のできごとに基づいた作品ではあるが、登場人物の設定など随所に映画オリジナルの脚色が施されることでコメディ色を強めるのは90年代前半のアメリカ映画らしい。98分の短い尺の中で、あっという間にチームを作って練習を始め、あっという間にオリンピックの開催されるカルガリーに乗り込んでいくという、テンポがいいのかハチャメチャなのか判別できない展開も、ひたすらに映画のおもしろさを高めてくれる要素である。とりわけ4人の選手とコーチのバックグラウンドが最小限にしか描かれず、常にオリンピックという“先”を見据えつづけていることがこの映画の良さではないか。近年の映画だとすぐ登場人物の背景やら心情を深掘りしようとして蛇足を生んでは上映時間を長くしがちである。この映画を観る人が何を観たいのか、そして何を描きたい映画なのかがハッキリとした、実にシンプルな映画だ。

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