『鎌倉殿の13人』第1回から垣間見えた勝者の悲劇 三谷幸喜の演劇的構成が光る
じつは初回放送において、その像はさほど深部まで見えてこなかった。というのも、先に書いた通り、義時は“ガイド”として、登場人物たちがどういう性質であるか、彼らがどういった関係性を築いているのかを自身の目を通して視聴者に提示する役割を担っていたからだ。
第1回の放送でわかったことは、平家が治める今の世にそこそこ満足している、初恋の相手は八重だが冷たくあしらわれている、兄・宗時(片岡愛之助)や姉・政子(小池栄子)らに強くものを言えない、将来を見据えて長期的に動くというよりは目の前のことに対応していくタイプ……このくらいであろうか。義時が10代前半である現時点では、現代の若い世代にリンクするキャラクターだと感じた。
とはいえ、これまで『新選組!』や『真田丸』で三谷幸喜が描いた敗者の美学とは異なり『鎌倉殿の13人』は、主人公・義時が時代の勝者として執権となり、権力を手に政治を動かしていく物語。どちらかというと押しが弱めの義時が頼朝をはじめ、源氏一派とどう渡りあうようになるのか、権力を手にした後、自らの政敵や邪魔な存在とどう対峙するのか。そこにはきっと、勝者にしか見えない壮絶な世界が広がるはずだ。
ここからは筆者の予想だが、『鎌倉殿の13人』では1年に渡り、相反する二つの世界が同時に描かれるのではないだろうか。第1回でその道しるべとして源頼朝と北条時政の多面性が明確に提示され、コメディパートの裏では頼朝の幼い実子が伊東家の命により暗殺される悲劇が進行。さらに冒頭で“姫”として登場したのがじつは頼朝だったという真実が終盤で明かされた。初回約1時間の放送を通して「今、見えていることだけを信じるのは危ないよ……反転すると違う世界が現れるよ」と三谷幸喜がわたしたちに向けてにやりと笑っていたかのようである。
そもそも第1回のタイトル「大いなる小競り合い」が今後の展開を暗に示していたのかもしれない。“大いなる”と“小競り合い”……通常ならば交わらない二つの単語がひとつのタイトルとなって激動の平安末期に浮かび上がる。
過去2作の大河で敗者の美学を描いた三谷幸喜が、本作ではどんな勝者の悲劇を展開させるのか。先が見えない令和の世の1年に楽しみがひとつ増えた。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK