『劇場版 呪術廻戦 0』が見出した映像化の正解 呪い(愛)を軸に描く青年の成長譚に

『劇場版 呪術廻戦 0』が見出した“正解”

 何より、声優を務めた緒方恵美の素晴らしい演技力が、乙骨というキャラクターを形作り、彼の抱えるあらゆる感情を昇華させたように感じる。これは乙骨に限らず、登場するメインキャラクター全員に言えることだ。声優がキャラクターに命を吹き込むことは、まさに映像化における大きな意味と醍醐味。それぞれに奥行きと深みを与え、彼らの視点や感情が丁寧に描かれているからこそ、それぞれの視点を考えながらこの一連の物語を捉えることができる。

 アニメ版も手がけたスタジオMAPPAが制作しただけあって、本作は定評以上に作画力がかなり高いのも見どころ。毎週放送のアニメは時よりその忙しいスケジュールゆえに「なんかキャラの顔が変わった?」というような作画崩壊が生じやすい。しかし、本作はどこからどう映しても、さらに激しい戦闘シーンの最中であっても“顔崩れ”が一切ない。キャラクターデザインと作画の完成度に脱帽どころか地面に頭を擦りつけたくなる想いだが、人物に止まらず背景の書き込みもすごく細かい。印象的な空模様から、夜の新宿の描写と、美しい情景が常に劇中描かれているのだ。

 加えて、原作にないオリジナル要素として、「百鬼夜行」の詳細が描かれたこともファンにとっては嬉しい演出だった。本編の会話の節々に触れられていた「逸話」のようなものを映像として観られたことで、改めてこの出来事の全貌を捉えやすくなっている。さらに、五条悟と夏油傑の関係性についても『0巻』が発売された当時には描かれず、後に本編の過去編で触れられる背景も盛り込まれていたことで、原作愛読者を泣かせ、未読者でも二人の因縁が理解しやすい。

 もともと原作の『0巻』の展開がやや駆け足気味なのに対し、しっかりキャラクターに時間を与える部分は与え、戦闘シーンは息継ぎを忘れてしまうほどの疾走感を持って描く。あまりにも多くのことが大スクリーンで、スピーディーに進んでいくので何回でも観たくなるし、観るたびに新たな発見があるだろう。先に述べたように、観るたびにどのキャラクターの視点に立って物語を捉えるか、という楽しみ方もできる。そんなふうに何度も観て楽しめる映画となった『呪術廻戦 0』は単なる漫画原作の映像化作品としての正解にとどまらず、映画そのものとしての正解なのではないだろうか。

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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