2021年の年間ベスト企画
のざわよしのりの「2021年 年間ベストアニメTOP10」 長編シリーズと秀逸なオリジナル作
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2021年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第3回の選者は、ライターののざわよしのり。(編集部)
2021年のアニメシーンで最も忘れがたいのが、長年続いていたシリーズものが映画で完結した作品があったこと。共にSFジャンルの『新世紀エヴァンゲリオン』と『シドニアの騎士』だ。また、劇場用オリジナル作品(既存のテレビアニメの映画化ではないという意味)の健闘も嬉しく、ベスト10としての順位付けが難しかったので、各ジャンルごとに忘れがたい作品を10本選出させていただいた。
・『ジョゼと虎と魚たち』
・『漁港の肉子ちゃん』
・『竜とそばかすの姫』
・『アイの歌声を聴かせて』
・『Vivy - Fluorite Eyeʼs Song-』
・『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
・『シドニアの騎士 あいつむぐほし』
・『かげきしょうじょ!!』
・『シャドーハウス』
・『映画大好きポンポさん』
文芸小説のアニメ映画
『ジョゼと虎と魚たち』(タムラコータロー監督)は田辺聖子の短編小説をアニメ化した映画だが、2003年に実写映画にもなっている。今年公開されたアニメ映画は、原作小説とも実写映画版とも違うラストに辿り着くが、希望のあるポジティブな着地点なのが良かった。下肢が不自由な少女ジョゼと親しくなる図書館の司書の少女が、映画オリジナルキャラクターとして登場するのだが、ジョゼを後押しする彼女の存在が後半で活きてくる構成も良し。
西加奈子の小説を、明石家さんまのプロデュースで映画化した『漁港の肉子ちゃん』(渡辺歩監督)は、渡辺監督の登場人物たちへの優しいまなざしが強く出ている。各キャラクターの背景などを総て説明的な台詞で表わすわけでなく、言外に示す描写も演出あるので、やや大人向けの映画かなという気がするが、肉子ちゃんの愉快なキャラクターで子どもも惹きこまれるかも。
オリジナル作品
『竜とそばかすの姫』(細田守監督)は、『サマーウォーズ』同様に仮想空間での出来事と現実世界の事件が交錯するファンタジー。仮想空間の中で描かれるゴージャスなCGビジュアルと、そのイマジネーションの豊さに目を見張るが、細田監督の過去作『おおかみこどもの雨と雪』にも通じる、家族の中のつらさ、悲しさという問題も織り交ぜている。幼い頃に母親を亡くして心を閉ざしていた主人公すずが、勇気をふりしぼって他人のために奔走する後半へのスイッチが心に残った。
『アイの歌声を聴かせて』(吉浦康裕監督)と、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』(エザキシンペイ監督)は、ともに自立人型AIの少女が歌を歌うことで人間を幸福にしようとする基本設定が共通しているが、『アイの歌声~』は舞台が学園で、AIの少女もちょっとポンコツ。全体的にハートフルコメディの味わいがあるのに対し、『Vivy』は100年後に起こるAIの反乱による人類抹殺を阻止しようと、主人公ヴィヴィが歴史修正のために戦う壮大なSFマインド溢れたシリアス作品である。そして両作品には、進化したAIには人の心のような感情が灯るのだろうか? といったテーマが内包されている。どちらの作品も、人型AIが辿り着く運命とその描き方に感銘を受けた。