田幸和歌子の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 “人と人を分断させない”様々な視点の秀作

田幸和歌子の「2021年ベストドラマ10」

 そうした異なる境遇・立場・考え方の人の視点を描くことで、気づきを与えてくれるのは、『生きるとか死ぬとか父親とか』『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』『スナック キズツキ』も同様だろう。特に『スナック キズツキ』は「誰かをキズツケた人もまた、キズツイている」というキズツケ→キズツキのリレー方式で描かれ、視聴者自身も「当事者」であることに気づかされる作品となっていた。『直ちゃんは小学三年生』もまた、大人が小学生を演じることで、子どもの頃には理解できなかった様々な“家庭の事情”“大人の事情”が浮かび上がるブラックヒューマンコメディだった。

『スナック キズツキ』(c)テレビ東京

 そんな中、他に類を見ない名作として突出していたのが、『俺の家の話』。なにせテレビドラマ界に衝撃を与えたエポックメーキング的作品『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)から『タイガー&ドラゴン』(2005年/TBS系)、『うぬぼれ刑事』(2010年/TBS系)と、約20年にわたり紡がれてきた長瀬智也×宮藤官九郎脚本×磯山晶プロデュースというチームの集大成だ。

 しかも、描かれたのは、約20年の歴史の中でそれぞれ年齢を重ねてきたからこそたどり着いた老いや介護、死など、誰もがやがて迎える普遍的なテーマ。それを大仰ではなく、悲壮感でもなく、「日常」の中で思わずクスリとしてしまう悲喜劇として拾い上げる手腕。この作品を最後の主演ドラマとして芸能界を去る長瀬智也への贐であり、彼が引退した後もエンタメ界に生き続ける姿と、主人公・寿一の死後も続く「日常」とを重ね合わせた演出も見事だった。

 ちなみに、もう一つ2021年ドラマで注目したいのは、同時期にNHKで放送されたチャレンジングな作品3本『きれいのくに』『半径5メートル』『今ここにある危機とぼくの好感度について』が、順番に訓覇圭、勝田夏子、勝田夏子+訓覇圭の2名の制作統括による作品だということ。コロナ禍でNHKのクリエイティブの底力を見せつけられた感のある作品群だった。

■作品情報
『俺の家の話』
Blu-ray&DVD発売中
Paraviにて配信中
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
音楽:河野伸
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(c)TBSスパークル/TBS

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