『半径5メートル』『ここぼく』勝田夏子CPに聞く “いま”を切り取る2作が生まれた背景
NHKにて放送中のドラマ10『半径5メートル』と土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』が好評だ。2作品ともに、現在の日本社会の問題点を浮かび上がらせ、今考えるべきこととは何かを視聴者に突きつけてくる作品となっている。2作品の制作統括を務めた勝田夏子氏に、残り2回の放送となった『今ここにある危機とぼくの好感度について』を中心に制作の経緯、脚本の魅力など話を聞いた。(編集部)
現実に先を越されていく感覚
――女性週刊誌の編集部で生活情報などを扱う“二折”を舞台としたドラマ10『半径5メートル』と、名門大学を舞台に起こる不祥事や様々な問題を描いたブラックコメディの土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』。この2作の制作統括が共に勝田さんということに驚きました。
勝田夏子(以下、勝田):4月期に2本というのは、普通はあり得ないことなんですよ(笑)。本当は『今ここにある危機とぼくの好感度について』(通称:ここぼく)は昨年10月期の放送予定で、昨年4月頃に撮影する予定だったんですが、コロナ禍の関係で撮れなくなり、リスケジュールした先がちょうど重なってしまったことで、2本同時に撮ることになったんです。コロナ禍ならではの異常事態です。
――『半径5メートル』は橋部敦子さんの脚本らしく、女性たちの言語化しにくいモヤッとした感情を生々しくすくいあげていますよね。
勝田:『ドラマ10』は30代以上の女性をメインターゲットとしている枠なので、まず彼女たちが今何を観たいかをチーフ演出の三島有紀子さんや橋部さんと一緒に考え、女性たちがコツコツと地に足着いた仕事をしている現場として、女性週刊誌編集部の「二折班」を舞台にしました。コロナ禍で身の周りのことがすごく気になっている人が多いことから、身近な話題を扱う「二折班」が面白いのではないかと思ったんです。
――『ここぼく』は渡辺あやさんの脚本ですが、京都大学の学生寮を舞台とした『ワンダーウォール』(2018年)とは、また全然違うアプローチですね。
勝田:渡辺あやさんと前々から「最近、言葉が破壊されているよね」「日本語が壊れていっているよね」という話をしていたんです。つまり、何か言っているようで何も言っていないような言葉や、はぐらかして何も答えないみたいなことが世の中で罷り通っていると。20年くらい前だったら許されない振る舞いだったことが、今は政治や行政の世界でも企業社会でもたくさんあって、それで逃げ切ったもん勝ちみたいな世の中になってしまっている現状に、私も渡辺あやさんも非常に強い危機感を持っていたんです。そういった状況をテーマにドラマを作れないかというところから始まりました。
――舞台は大学ですが、お茶の間では国会などと重ねて観ている人が多いのではないかと思います。
勝田:そうですね。ただ、こうしたことは今、社会の隅々で起きていることだと思うんですよ。なぜ大学を舞台にしたかというと、今、大学は「選択と集中」とか、格差とか、企業並みの管理の強化とか、社会の荒波にかなり揉まれていて、学者がただ研究に専念することが許されない現状になっていることを知ったからです。でも、世の中の多くの人は、今もまだ大学が象牙の塔で社会から隔絶されているとか、好き勝手に研究しているのんきな世界だと思っていますよね。そんなサンクチュアリだと思われていた大学ですら今、危機に立たされているんだということに衝撃を受けました。渡辺あやさんも『ワンダーウォール』で現代の大学のありように関心を持っていらしたので、舞台にすることを決めました。大学を舞台としつつも、社会の縮図として描くことによって、いろんな問題が煮詰まったかたちで表現することができるんじゃないかと。ただ、特にこのあと放送する終盤の展開については、いつかこういうことがあってもおかしくないなと思いながら作っていましたが、それがどんどん現実になっていき、現実に先を越されていく気がしましたね。
――松坂桃李さんが演じる「何か言っているようで何も言っていない」主人公・神崎真に、特定の政治家を重ね合わせて観てしまっている人も多いです(笑)。
勝田:それはすごく意外だったんですよ(笑)。皆さん異口同音に「あの人がモデルではないか」とおっしゃいますけど、そんな意図は全然なくて(笑)。ただ、何か言っていそうで何も言っていない人は実際たくさんいますし、今の世の中の風潮としてそんな人が罷り通っているということの端的な例として、あのキャラクターを作っただけなんです。逆に、神崎真的なものを自分の中に抱えていない人、神崎真のことを本当に笑える人って何人いるのかなとも思います。
――確かに、そこは耳が痛いです……。それにしても、悪意があるわけではなく、かといって何もわかっていないバカでもなく、処世術だけど、狡猾でもないキャラクターは絶妙ですよね。
勝田:そこは渡辺あやさんのセンスですね。言葉がどんどん軽くなって破壊されていることをテーマにしようとしたときに、言葉をあえて戦術として軽く使う男を主人公に据えたことは、発明だったと思います。