佐藤健は時代の体現者 『るろ剣』『竜とそばかすの姫』で2021年“エンタメ界の顔”の代表に
コロナ禍によって、不安定な日々が続く世の中。いまだエンターテインメント業界も楽観視できない状況にあるが、それでも、映画、ドラマ、演劇にと、この2021年も多くの俳優から大きな感動を与えてもらった。特に印象に残っているのが、佐藤健である。今年の“エンタメ界の顔”の中でも、確実にセンターに立つ存在だったと思う。
今年の出演作を、順番に振り返ってみたい。
まず4月に、主演作『るろうに剣心 最終章 The Final』が封切られた。これは説明不要だろうが、2012年に始まった映画『るろうに剣心』シリーズの完結編にあたるもの。佐藤演じる主人公・緋村剣心の頬にある十字傷の秘密を知る男・雪代縁が現れ、憎しみだけが行動原理となっている彼と死闘を繰り広げるーーというのが本作の筋書きだ。縁を演じたのは、アクションにも定評があり、現在は活動拠点を海外に移した新田真剣佑。佐藤にとって下の世代の筆頭株であり、これから世界を相手に闘っていこうという新田が“ラスボス”なのは、敵として不足なし。完結編に相応しい豪奢な演出に、これまで以上にスペクタキュラーなアクションとで大団円を迎えた。
その直後の6月、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が封切られた。こちらはタイトルからも分かる通り、“『るろうに剣心』シリーズのはじまり”を描いたもので、いわゆるプリクエル(前日譚)映画。主人公の剣心が、“人斬り抜刀斎”と世間から恐れられていた頃の物語であり、剣心と抜刀斎はまったく違う。前者は基本的に朗らかな人物だが、後者は口数も少なく、血も涙もない人斬りだ。
抜刀斎は、とにもかくにも斬殺しまくる。このこともあって、『The Beginning』はほかの『るろうに剣心』シリーズとは手触りがまったく異なり、エンタメ作品というよりかは“時代劇色”が強いのだ。そのために派手な演出は抑えられ、アクションは完全に俳優の身体能力の高さが重要となってくる。つまりハッタリがきかないのだ。しかし、冒頭の数分だけでアクション俳優・佐藤健の力に感服し、ただ涙を流すしかなかった。彼は恐ろしく“早い”のだ。むろん、アクション監督の存在や、敵を演じる俳優たちの受けの上手さあってこそのものとは思うが、「佐藤健には全身に目がついているのでは?」と思える動きの連続。やがてクライマックスに向けては、アクションよりも静かな恋愛ドラマの趣が強くなり、ヒロインを演じる有村架純とともに、最終作として、そしてまた『るろうに剣心』シリーズのはじまりへと繋がる好演を刻んだ。佐藤は約10年間、一つの作品を背負い続けたのである。