段田安則は“仕事ができる男”がよく似合う 『カムカム』を引き締める千吉さんの説得力
自信があり、何でも自分一人で決めてしまう千吉が第14話で、稔の出征を前に、勇の勧めで安子に会いに行った御菓子司「たちばな」でのシーンは特別なものになっていた。安子はふらりと店に来た千吉を稔の父とは気づかず、祖父の初七日のために用意していた貴重なお汁粉を千吉に振る舞った。戦争の真っ最中で砂糖が手に入らず、店に並べる和菓子も作れない中、祖父の好物で「たちばな」の原点でもあるお汁粉であることを安子の父、金太(甲本雅裕)は伝えた。
「たちばな」が原点であるお汁粉を大事にしているように、千吉にも、「雉真繊維」の原点である足袋への思い入れがある。金太は、息子の算太(濱田岳)が出征する際に意地を張って見送らず、後悔していた。自分の後継者として期待していた息子を戦争に奪われる父親同士、千吉役の段田と金太役・甲本雅裕の名演技が冴え渡り、朝ドラの名シーンの中でも記憶に残る場面となった。
シリアスはもちろん、コミカルでユニークな役柄も自由自在にこなす段田にとって、家族思いで厳格な父である千吉はハマり役となっている。さらに、現在放送中のドラマ『和田家の男たち』(テレビ朝日系)では、主人公・優(相葉雅紀)の祖父・寛役でも登場。ダンディで女好き、元新聞記者で大手新聞社の社長にまで登りつけた男を粋に演じている。
金曜日は、朝ドラの立派なお父さんから夜になると、別居再婚した亜蓮(草刈民代)に夢中で、すき焼き好きなカッコイイおじいちゃんになるギャップも話題になっている。ちなみに、『和田家の男たち』は、段田が父親役で出演した朝ドラ『ふたりっ子』(1996年10月~1997年4月)の脚本家でもある大石静が手がけている。
また、段田はNHK大河ドラマで2回、滝川一益の役を演じている。『秀吉』(1996年)と『真田丸』(2016年)で、織田信長に仕えた重臣の一人だったが、本能寺の変で立場が一変。好機を逃さなかった策略家の秀吉と対照的な人物像を築き上げていた。
ここで挙げた役柄は段田のキャリアのほんの一部でしかないが、共通していえるのは「仕事ができる男」ということ。一言で「仕事ができる」と言っても、理性的であるとか、知識が豊富であるだけでなく、清濁合わせ呑む度量の大きさや判断力の有無など多岐にわたる。
段田はインタビューで「千吉の見どころを挙げるなら、家族とのシーン。どの役も多面的に描かれた脚本で、仕事に対して厳しい千吉ですが、家族に対する彼の思いがにじむシーンがそこここにあります」と語っている(参照:段田安則、『カムカム』の“息子”松村北斗と村上虹郎を絶賛 「気持ちがいい俳優さん」)。その人物の多面的な魅力を引き出していく。厳しいだけでなく、内側からにじむものを表現する力こそ、観る者に訴え、共感を呼ぶのだろう。岡山での暮らしが再び始まり、家族それぞれの変化も気になるところだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK