『最愛』しおりの瞳が潤んだ理由 間に合わなかった「逃げても何も変わらない」の救い
振り返ってみれば、後藤がしおりをどうにかするチャンスなど今までいくつもあった。ペーパーカンパニーを突き止めたしおりを拉致したときには、人知れず消すことも十分可能だったはず。もともと梨央を社長の座から引きずり下ろしたいという思いも、情報屋を用いて間接的に実現しようとしていた後藤のことだ。いくら追い詰められていたからといってこんなにも直接的に手を下すことがあるのだろうか……と勘ぐってしまう。
とはいえ、しおりの死を前に後藤が姿をくらませたのは十分怪しい行動だ。加瀬(井浦新)からの電話を無言で切り、大きなスーツケースを転がしながら歩いていた薄汚れたアパートのような建物は一体どこなのだろうか。真田グループ・専務という肩書きを持った後藤が、あの建物に暮らしていたとは思えない。
これから行方をくらまそうという大荷物を手にしたまま、他の建物にわざわざ立ち寄るというのもおかしな行動だ。では、あの建物から持ち出したものということだろうか? だとしたら、あのスーツケースの中には一体何が入っているのか……。
昭が池を這い上がり隣の池で死んでいた謎も解決しないまま、さらなる謎が積み重なった。ただ、ひとつわかってきたのは最も追い詰められたときに、人は誰かに守られていると知ることで救われるということ。あの最悪な日に、梨央が父と優に守られたように。15年間、優が梨央に守られたように。そして梨央と優が罪と向き合えるように加瀬と大輝に守られたように。誰かに守られたという記憶が、その後の人生をどう生きるかに大きく影響するのではないだろうか。
しおりにも、もしそういう人が1人でもそばにいてくれてたなら、こんなにも報われない死を迎えることはなかったのではないかと胸が痛む。そして、願わくば窮地に立たされているであろう後藤にも、「逃げても何も変わらない」と言って一緒に痛みを分かち合ってくれる人が現れんことを。
■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS