『バトル・ロワイアル』公開当時に何が起きたのか 深作欣二晩年の傑作で叶わなかった思惑

『バトル・ロワイアル』公開当時何が起きた?

 そして公開から1週間経った土曜日に再び丸の内東映に向かい、朝一番の列に紛れるようにして入場に成功した。やっと観られるうれしさと、描写される悲劇に涙が止まらなくなった筆者少年は、当時まだ入替制でなかったのをいいことに居座り続け、2回目は最前列でその迫力に打ちのめされ、3回目に2階席に移動して映画としての完成度の高さに魅了された。その後もチケットショップで事前に前売り券を購入して方々の劇場を回って鑑賞し(なかには入場を断られたところもあったが、止められれば素直に従った)、ムーブオーバーの際には父親を連れて行って切符を買わせたり、『特別篇』の試写会では始発から列に並んでチケット配布のタイミングで中学を卒業したばかりの姉に来てもらってスイッチするなど、思い浮かぶあらゆる手を尽くしてこの映画を観ようと画策したものだ。

(c)2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

 およそ20年の間に劇場とソフトで何度観たのかもはや数えていないのでわからないが、自分自身が主人公の七原秋也(藤原竜也)の年を上回り、やがて大人になっていくにつれて、画面越しに見える世界はどんどんと変わっていく。それは映画というものの醍醐味に他ならない。親友のため、彼が想いを寄せていた女の子を守ろうと戦いつづける秋也や、片想い相手を探しつづける杉村弘樹(高岡蒼佑)といった青春を動力源にして行動する登場人物への感情移入も然り、死と隣り合わせのなかで貪欲に生きていくことを求める生々しさも然り。理不尽な体制への反発と、自分たちで未来を切り開こうとする模索、そして何より、いかに暴力が無意味なものであるか。

 戦争を知っている世代が戦争を知らない子どもたちに向けて作った『BR』は、かつては中高生や若者こそ観るべき映画だったかもしれない。けれども20年が過ぎ、戦争を知らない子どもたちが社会の大部分を占めるようになったいまでは、また違う意味を持つ映画に様変わりしたといってもいいだろう。「人のこと嫌いになるってのは、それなりの覚悟をしろってことだからな」というビートたけし演じるキタノの台詞も、当時よりもいまの方がしっくりくる。

(c)2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

 時間の経過とともに変化していくもの。大人と子どもの間に立たされた中学3年生を描いた『BR』こそ作品の外側でそれを体現することとなったわけだが、深作作品には常にそれがテーマとして内側にしっかりと横たわっている。今回放送される『仁義の墓場』は、『仁義なき戦い』シリーズと同様、戦後の混乱期でもがくヤクザの生き様を描いた作品であり、『北陸代理戦争』も実在のヤクザをモデルにした作品だ。どちらも実録路線を代表する傑作で、こうした作品につきものの時間経過=刑期を終えて出所してくればまるで違う世界が広がっている。それは現代劇に限らず、将軍の死によって大きな変化に直面する人々を描く『柳生一族の陰謀』でも同様だ。そこには人間の業や欲望がつきまとい、良くも悪くもエネルギーが入り乱れた末に変化が訪れる。諸行無常という言葉はあるが、それは自然のものではなく人為であると教えてくれるのである。

 『BR』と『柳生一族の陰謀』は、今回「4Kリマスター版」として放送される。この企画では全30本のうち12本が、より鮮明な映像でよみがえった「4Kリマスター版」として、次の10年、30年に残していくための準備が進められているわけだ。まもなく実録路線の誕生からも半世紀が経ち、社会の実情ももちろん映画を取り巻く環境さえも大きく移り変わっている。物理的に色褪せてしまった映画は、いまの技術をもってすればよみがえらせることができる。あとはそうした過去の名作の価値を、このような鑑賞機会を通して次の世代につなげていくことが求められるのだろう。

【東映創立70周年記念】いま観ておきたい絶対名作30 Vol 2

■放送情報
「東映創立70周年記念 いま観ておきたい絶対名作30 Vol.2」
『仁義の墓場』
出演:渡哲也、梅宮辰夫、安藤昇、ハナ肇、田中邦衛、成田三樹夫、多岐川裕美、池玲子、芹明香、山城新伍
監督:深作欣二
脚本:松田寛夫、神波史男、鴨井達比古
1975年/94分
(c)東映

『バトル・ロワイアル 4Kリマスター版』
出演:藤原竜也、前田亜季、山本太郎、栗山千明、柴咲コウ、安藤政信、ビートたけし
監督:深作欣二脚本: 深作健太
2000年/113分/R15+
(c)2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

『人生劇場 飛車角』
出演:鶴田浩二、佐久間良子、高倉健、月形龍之介、梅宮辰夫、村田英雄、加藤嘉、曾根晴美
監督:沢島忠
脚本:直居鉄哉
1963年/95分
(c)東映

『楢山節考 4Kリマスター版』
出演:緒形拳、坂本スミ子、あき竹城、倍賞美津子、左とん平、倉崎青児、小林稔侍
監督:今村昌平
脚本:今村昌平
1983年/130分
(c)東映・今村プロ デジタル復元協力:独立行政法人国際交流基金

『柳生一族の陰謀 4Kリマスター版』
出演:萬屋錦之介、千葉真一、松方弘樹、西郷輝彦、成田三樹夫、山田五十鈴、三船敏郎、大原麗子
監督:深作欣二
脚本:野上龍雄、松田寛夫、深作欣二
1978年/131分
(c)東映

『北陸代理戦争』
出演:松方弘樹、野川由美子、千葉真一、ハナ肇、高橋洋子、西村晃、成田三樹夫、中谷一郎、矢吹二朗、地井武男
監督:深作欣二
脚本:高田宏治
1977年/99分
(c)東映

『大日本帝国 第1部シンガポールへの道 第2部愛は波濤をこえて』
出演:丹波哲郎、あおい輝彦、三浦友和、西郷輝彦、関根恵子、夏目雅子、仲谷昇、篠田三郎
監督:舛田利雄
脚本:笠原和夫
1982年/182分
(c)東映

『鬼龍院花子の生涯 4Kリマスター版』
出演:仲代達矢、夏目雅子、岩下志麻、中村晃子、山本圭、丹波哲郎、高杉かほり、夏木マリ、仙道敦子
監督:五社英雄
脚本:高田宏治
1982年/147分
(c)東映

『もっともあぶない刑事』
出演:舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオル、中条静夫、真梨邑ケイ、柄本明
監督:村川透
脚本:柏原寛司
1989年/104分
(c)東映・日本テレビ・セントラル・アーツ・キティ・フィルム

『銀河鉄道999(劇場版)』
出演:(声)野沢雅子、池田昌子、肝付兼太、井上真樹夫、田島令子、富山敬
監督:りんたろう
脚本:石森史郎
1979年/129分
(c)松本零士、東映アニメーション

「東映創立70周年記念 いま観ておきたい絶対名作30 Vol.3」
『新幹線大爆破 4Kリマスター版』
出演:高倉健、宇津井健、千葉真一、山本圭、織田あきら、竜雷太、田中邦衛、丹波哲郎
監督:佐藤純彌
脚本:小野竜之助、佐藤純彌
1975年/152分
(c)東映

『新吾十番勝負 第一部・第二部 総集版』
出演:大川橋蔵、大友柳太朗、長谷川裕見子、月形龍之介、山形勲、岡田英次
監督:松田定次(第一部)、小沢茂弘(第二部)
脚本:川口松太郎
1959年/104分
(c)東映

『緋牡丹博徒 花札勝負』
出演:藤純子、高倉健、若山富三郎、嵐寛寿郎、待田京介、藤山寛美、小池朝雄、沢淑子
監督:加藤泰
脚本:鳥居元宏、鈴木則文
1969年/99分
(c)東映

『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声 4Kリマスター版』
出演:沼田曜一、伊豆肇、原保美、河野秋武、信欣三
監督:関川秀雄
脚本:舟橋和郎
1950年/108分
(c)東映

『飢餓海峡』
出演:三國連太郎、左幸子、高倉健、伴淳三郎、加藤嘉、沢村貞子、藤田進、風見章子、山本麟一
監督:内田吐夢
脚本:鈴木尚之
1965年/183分
(c)東映

『ビー・バップ・ハイスクール』
出演:清水宏次朗、仲村トオル、中山美穂、宮崎ますみ、本間優二、地井武男、小沢仁志
監督:那須博之
脚本:那須真知子
1985/96分
(c)東映・ウィングスジャパン

『やくざ戦争 日本の首領(ドン)』
出演:鶴田浩二、佐分利信、菅原文太、千葉真一、松方弘樹、梅宮辰夫、高橋悦史、渡瀬恒彦、西村晃、成田三樹夫
監督:中島貞夫
脚本:高田宏治
1977年/133分
(c)東映

『武士道残酷物語 4Kリマスター版』
出演:中村錦之助、東野英治郎、渡辺美佐子、有馬稲子、加藤嘉、木村功、三田佳子
監督:今井正
脚本:鈴木尚之、依田義賢
1963年/123分
(c)東映

『鉄道員(ぽっぽや)4Kリマスター版』
出演:高倉健、大竹しのぶ、小林稔侍、広末涼子、奈良岡朋子、田中好子、安藤政信、志村けん、吉岡秀隆
監督:降旗康男
脚本:岩間芳樹、降旗康男
1999年/113分
(c)1999「鉄道員(ぽっぽや)」製作委員会

『白蛇伝 4Kリマスター版』
出演:(声)森繁久彌、宮城まり子
監督:藪下泰司
脚本:藪下泰司
1958年/78分
(c)東映

東映チャンネル 公式サイト:https://www.toeich.jp/
東映創立70周年記念特集サイト:https://www.toeich.jp/special/toei70th_anniversary

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