Z世代に向けた『もののけ姫』論 90年代の熱狂と今こそ語られるべきメッセージ

今後のスタジオジブリはどうなるか

ーー改めてジブリが現代のアニメシーンにどれだけ影響を与えている存在なのか教えていただけますか?

杉本:影響外にある作家とかスタジオ、作品を挙げる方が難しい気がします。スタジオジブリというか高畑(勲)さんと宮崎さんが所属されていた東映動画が日本アニメの制作システムを作ってそれを実践してきた。宮崎監督が1番上にいて、全てがそこから派生されているようなイメージです。あと日本のアニメの背景を作るうえでジブリは明らかに基準点になっていると思います。

渡邉:今のアニメ業界で宮崎監督の影響を受けていないものはないですし、あとは宮崎監督の裏に高畑勲というラスボスがいるということですよね。宮崎アニメが興行的にもすごく目立つし、ジブリ=宮崎駿とはなりますけど、その裏にいるのは高畑勲というか。高畑勲は日本のアニメの作り方、システムをレイアウトシステムというものも含めて作っちゃった人で、高畑に徹底的な影響を受けたのが宮崎監督なので。手塚治虫みたいなものですよね。手塚治虫を1冊も読んだことないけど手塚治虫に影響を受けていない漫画家はいないみたいな。DNAとして刷り込まれているクリエイターというか存在なのかなと思います。

ーー宮崎監督は『風立ちぬ』で一時引退を発表して(後に『君たちはどう生きるか』を制作中であることを発表)、それ以降長編アニメでは、宮崎監督の作品は公開されてません。現在のスタジオジブリについてはどう感じていらっしゃいますか?

渡邉:『風立ちぬ』以降の長編アニメでは『思い出のマーニー』『レッドタートル ある島の物語』『アーヤと魔女』が公開されています。ジブリ的にも戦略なのか、少し地味になりましたよね。

杉本:『思い出のマーニー』はすごく良い映画でしたけど、従来のスタジオジブリに求められていたものではなかったかもしれません。だからあの作品はジブリブランドとしてではなく、別のスタジオから出てきていたらすごく絶賛されていたんだなと思います。『アーヤと魔女』に関しても宮崎吾朗監督という人がアニメ作家としていかに宮崎駿監督との距離をとるかという戦略の中で、3DCGという選択肢をとったのではないかと思います。ジブリブランドとはいえ、基本的には今までのジブリ作品とは別のものとして観た方が、僕はすっきり観られる気はしますね。90年代のジブリのイメージで観ると若干違うなと思うようにはなるかな。

渡邉:宮崎監督は再びジブリでアニメを制作してはいますが、『風立ちぬ』でジブリの歴史は1回終わったと考えていいと思います。

杉本:そうですね。元々スタジオジブリがなぜ結成されたかというと『風の谷のナウシカ』という作品がヒットしたことで「宮崎駿という才能をもっと活かして継続的に作品を作れる体制を作っていきましょう」ということだったので。ある意味、宮崎監督ありきだったんですよね。なので宮崎監督が引退したらそもそも歴史的な役目としては一旦終わりというところはありますね。

渡邉:杉本さんがおっしゃったように「ジブリでもジブリにあらず」というか、また別のものとして続いているという感じでしょうか。

杉本:とはいえ宮崎監督の直系の弟子である高坂希太郎さんなどが活躍されていますし、僕が思うに「ジブリ」というブランドがもしここで終わったとしても、あらゆる日本のアニメに影響力があるので、ジブリ的なものはこれからも観られ続けていくと思います。

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第1回:『竜とそばかすの姫』

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