『おかえりモネ』は救えなかった側の葛藤を描く 視聴者視点から震災を共有した作品に

『おかえりモネ』が描く“ある”葛藤

 誰かを救おうとする限り、救えなかったという事実はついてまわる。人の役に立とうとすることは、己の無力さや弱さと向き合うことでもある。朝岡は避難を勧告しなかった自らの決断について「私はあの時点での最善を尽くした。そう言えないとしたら、それは無責任です」と専門家の自覚を口にする一方、ふたたび集中豪雨に見舞われた現地に足を運ぶ。ただし、それは決して後ろ向きな動機からではない。朝岡が言うように「何もできなかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思う」。だからこそ、救えなかったという傷を抱えながら何度でも向き合うのだ。

 第3部ではふたたび舞台を東北に移し、百音が気象予報士として奮闘する姿を映す。地元に貢献したいという百音の願いはなかなか聞き入れられず、亮からは「きれいごとにしか聞こえない」と言われてしまう。故郷に帰ってきた百音に「部外者の暴力」ではない寄り添い方ができるか。物語の核心部に踏み込む過程は、百音が自身にかけた呪いを解いていくプロセスと重なる。最終的にそれは耕治(内野聖陽)が朝岡に語った「人」に帰着するのではないだろうか。

 長らく朝ドラでは、悪人の登場しない「優しい世界」が描かれてきた。その傾向は震災以降顕著であり、過酷な現実に抗してある種の予定調和が求められてきたと考えられる。『おかえりモネ』が優しい世界の向こうに予測不能な暴力を対置している点はこれまでと同様だが、不干渉からリードタイムを保った他者とのコミュニケーションに踏み込んでいることは特筆すべき点だ。『おかえりモネ』には、作品を通じて関係性をリデザインする安達奈緒子らしさが随所に表れており、震災と私たちの関係に一石を投じている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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