『イカゲーム』は単なるデスゲーム作品ではない 韓国社会を反映させた監督の手腕

 Netflixで9月17日から配信開始された韓国のオリジナルドラマ『イカゲーム』は、韓国のみならず、日本、アメリカなど各国の視聴ランキングで1位に輝いた。

 本作の第一報、その鮮やかで奇天烈な雰囲気の映像を観たときは、これまでにない韓国ドラマが始まるのだなと思った。それと同時に、「デスゲーム」というジャンルをそのまま描くのでは少し残念だなと心配をしていたのだが、それは杞憂であった。

 『イカゲーム』の主人公は、結婚して娘が生まれるも、現在は離婚して母親の家で運転代行をしながら暮らしている47歳のソン・ギフンだ。「うだつのあがらない」と一言で説明できるような役は、ソン・ガンホならよく見るが、『新しき世界』などに出演してきたイ・ジョンジェがこのような役をコミカルで愛嬌たっぷりに演じることは新鮮に映った。

 うだつのあがらない中年男性が、過酷な状況に巻き込まれるという意味では、大泉洋主演、佐藤信介が監督の映画『アイアムアヒーロー』を思い起こしたりもした。同じ佐藤信介が監督するNetflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』などの世界観にも通じるし、『カイジ』を思い浮かべた人も多いだろう。実際に監督自身も、『カイジ』をはじめ、日本の「デスゲーム」作品である『LIAR GAME』や『バトル・ロワイアル』などを参考にしたと認めているとのことである。こうしたジャンルは日本のみならず各国で存在するものであるし、『イカゲーム』の面白さは別のところにあると言っていいだろう。

 本作は、ギフンが母親の金をキャッシュカードから引き出し、借金を抱えたとき、地下鉄の駅で出会った男から、謎の招待状をもらったところから物語が転がり始める。

 招待された場所に行くと、そこでは「だるまさんが転んだ」(韓国では「ムクゲの花が咲きました」という)が第1のゲームとして始まる。「だるまさんが転んだ」のルールに沿って、少しでも動いたものは、容赦なく射殺されてしまう。その後も、参加者は子供の頃に遊んだ様々なゲームに挑み、負けたものは次々と脱落していく(命を落としていく)。会場に集まったものたちはみな、ギフンのようにさまざまな理由で借金を抱えていた。

 上記の設定は「デスゲーム」ものの定番であるが、これまでの作品との違いは第2話で明らかになる。参加者たちの多数決により、ゲームは中止になり、元の日常に戻ることになるのだ。

 ここで、それぞれの参加者が、社会の中で様々な理由で取り残されている人々であることが描かれる。そのことで、明らかになるのが、このゲームの参加者たちは、「自己責任」で借金をしたのではなく(もちろん、その理由もまったくないわけではないが)、社会が彼らを貧困にしたのだということだ。

 ギフンのほかの参加者は、北朝鮮からの脱北者であったり、外国から来た労働者であったりする。また、女性の参加者が一見、したたかにも見える戦略を使ってでも生き残らねばならない状況なども描かれる。

 韓国が、こうしたジャンルに参加するのは後発であるが、社会的な目線を「デスゲーム」のジャンルに融合させたところが、韓国のコンテンツらしさであるなと強く感じた。そういう意味では、ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』との共通点を見つけた視聴者も世界中にいたのではないだろうか。

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