クリストファー・ノーラン、新作でユニバーサルと初タッグ ワーナーと袂を分かつ

ノーラン、新作でユニバーサルとタッグ

 『ダークナイト』3部作や『インターステラー』(2014年)などのクリストファー・ノーラン監督が、『TENET テネット』(2020年)に続く新作映画で、“原爆の父”として知られる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーを描くことがわかった。Deadlineが報じている(参照:Christopher Nolan Bombshell: Director Talking To Multiple Studios On Film He’ll Direct About J. Robert Oppenheimer & Development Of The A-Bomb In WWIIChristopher Nolan Chooses Universal Pictures For His Film About J. Robert Oppenheimer & The A-Bomb)。

 ノーランはこの新作映画で監督・脚本を務め、長年のパートナーであるエマ・トーマスとプロデューサーも兼任。出資・配給はユニバーサル・ピクチャーズが担当し、ノーランとは本作で初めてのタッグとなる。『インソムニア』(2002年)以来、ノーラン作品は主にワーナー・ブラザースが製作・配給を担ってきたが、約20年にわたる両者の関係性は途切れることとなった。

 題材に選ばれたロバート・オッペンハイマーは、第二次世界大戦において、アメリカ・イギリス・カナダによる原子爆弾製造計画「マンハッタン計画」を指揮した人物。Varietyによれば、戦後、オッペンハイマーが核兵器の国際管理を訴え、水素爆弾の開発に反対するという変化も映画の中で描かれるという(参照:How Universal Beat Other Studios to Land Christopher Nolan’s New World War II Epic)。

 報道によると、ノーランの新作映画はすでにスタジオ側のゴーサインが出ており、2022年の第一四半期にも撮影が始まる見込み。2023年後半~2024年の劇場公開を目指す。なお、主要キャスト候補には『ダークナイト』3部作や『インセプション』(2010年)、『ダンケルク』(2017年)に出演したキリアン・マーフィーが報じられているが、現時点でキャスティングは一人も確定していないとのことだ。

 ノーランとワーナーが袂を分かった最大の要因とされているのは、新型コロナウイルス禍において、ワーナーが2021年の劇場公開作品を、自社ストリーミングサービス「HBO Max」にて同時配信すると決定したことだ。とりわけノーランの怒りを買ったのは、ワーナーが発表直前まで、この事実を映画監督や出演者、製作会社などに通知しなかったこと。コロナ禍において『TENET テネット』の劇場公開に踏み切ったワーナーに対し、ノーランは謝意を述べていたが、その後、同社の配信戦略には公の媒体にて不信感をあらわにし、激しい批判をぶつけている。

 一連の報道によれば、ノーランの新作映画の権利獲得をめぐっては、ユニバーサルとワーナーのほか、パラマウント・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ、MGM、そしてApple Studiosなどが参加。情報の流出を防ぐため、各社の幹部はノーランの自宅で脚本を読み、ミーティングを行ったといわれる。

 The Hollywood Reporterによると、ノーランは新作映画を比較的小規模となる1億ドルで製作予定(広報費も同額)。パートナー候補となったスタジオには、劇場公開の重視を求め、約100日間の劇場独占公開を行うこと(日数には諸説ある)のほか、創作の全権をノーランが握ること、総興行収入の20%を報酬として受け取ること、映画公開の前後3週間は同社の異なる新作映画を封切らないことを要求したという。これらの条件の多くは、以前のワーナーとの契約に盛り込まれていたものだ。

 こうした中、パラマウントは劇場公開を重視していたジム・ジアノープロス会長の辞任を決定。後任者には“配信重視”といわれるブライアン・ロビンス氏が就任し、候補から外れた。ストリーミング畑から参戦したAppleは、劇場公開に注力する方針を示すもノーランの要望には届かず。ソニーも熱意を示したが選ばれず、ワーナーは最終候補にも残らなかったという。なお、原爆製造という題材に商業的懸念を示したスタジオもあったと報じられている。

 こうした中、ユニバーサルが新パートナーに選ばれた背景には、同社のドナ・ラングレー会長による働きがあった。ラングレー会長とノーランは長年にわたり良い関係性にあり、ワーナーとノーランの不和がわかったのち、会長から積極的な関係構築に動いたという。『レゴ』シリーズやプロデューサーのダン・リンなど、ワーナーと協働したブランドやフィルムメーカーをユニバーサルが引き受けていること、コロナ禍で新たな公開戦略を模索してきたこともプラスに働いたようだ。2021年9月14日(米国時間)時点で、ノーランはユニバーサルを新たなパートナーにすると決断していたという(参照:Inside the Studios’ (And Apple’s) Frenzy to Get Christopher Nolan’s Next Film)。

 ただしVarietyによると、ユニバーサルがノーランの条件を現実的にどこまで受け入れるかは不明。なかでも「映画公開の前後3週間は同社の異なる新作映画を封切らない」という条件については検討の余地があるとのことだ。

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