土屋太鳳、いつから“脱・清純”へ? イメージ塗り替えた作品の変遷を辿る

土屋太鳳、イメージ塗り替えた作品の変遷

 透明感のある存在感、儚げで可憐、芯がありながら神秘的なところも兼ね備えている、そんな印象の強い土屋太鳳。NHK連続テレビ小説『まれ』でヒロイン役を演じ“国民的女優”となった後は、映画『orange -オレンジ-』『青空エール』など、人気少女漫画の実写化での女子高校生役が続いた。映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』でのリアルで迫真の演技が評価され、今はさらに演じる役どころの幅を広げ続けている。

 興味深いのが、いわゆる清純派女優がコメディー作品にもチャレンジし、コメディエンヌとしての才も認められていくパターンは珍しくないものの、土屋の場合には元々の身体能力の高さを生かした映画『累 -かさね-』での舞踏シーン、映画『るろうに剣心』や『今際の国のアリス』(Netflix)でのアクションシーンが彼女のパブリックイメージを刷新した。特に『今際の国のアリス』ではショートカットにタンクトップ×パンツ姿でクライミングする、クールでミステリアス、そして中性的な雰囲気がありながら生きることに貪欲なウサギ役を好演している。

Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』(c)麻生羽呂・小学館/ROBOT

 シリアスさや“情念深さ”を感じさせる役どころも続いている。前述の映画『累 -かさね-』では、演じることに極端な執着心を持つものの顔に傷のある累(芳根京子)と美人だが演技力の乏しい丹沢ニナ(土屋太鳳)が口紅を使って顔を入れ替え互いを利用し合うという設定上、別人格で全く演技力も異なる2人の女性の演じ分けが自ずと求められる。2人の入れ替わりシーンがなくとも今どちらの人格を演じているのか明確にわかる程にその醸し出す雰囲気は全く異なっていた。途中で舞台でのお芝居を挟み、累に憑依されている時の凄みと、そしていつか自身の人生を累に乗っ取られてしまうのではないかと苛立ち怯えながらも反逆するニナがせめぎ合う様子、2人ともに常軌を逸してゆく姿、極限状態の中舞台上でスポットライトを浴び続ける姿を鮮烈に体現していた。

 この光と影の共存が見事な土屋の秘めたる狂気をまざまざと見せつけられたのが、今年公開された映画『哀愁しんでれら』だ。世間を騒然とさせる凶悪事件を起こしてしまう主人公・小春というダークな一面のある役どころを熱演した。真面目に懸命に生きてきて「幸せになりたい」とピュアに願う小春が、その真面目さゆえに“良妻賢母であらねば”という強迫観念に苛まれ徐々に狂気じみ壊れていく危うさ、ギリギリさは非常にリアルで、彼女の切羽詰まった苦しみ、どうしようもない痛みが伝わってきた。

『哀愁しんでれら』(c)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

 本作での土屋のコメントで印象的だったのが、このオファーを実は3回断ったこと、そして「4回目に戻ってきた時、急に『この物語は生まれたがってるんじゃないか』と感じたんです。脚本の中で小春が泣いているようにも感じました。私に出来ることがあるなら、一緒に泣くこと。理解できるかではなく生まれてくるものを愛すること」(参考:土屋太鳳が3回オファーを断った! 狂気の変貌遂げる主演映画『哀愁しんでれら』2021年早春公開)という言葉だ。まさに彼女のお芝居や“演じる”ということ自体への向き合い方を示唆している言葉だと思える。彼女のようなもともと几帳面で着実、かつ生真面目な人が演じてくれる小春だったからこそ、“凶悪犯”という理解を超えた存在が突如生まれるのではなく、また生まれながらに“凶悪犯”という存在などいないことが暗示される。その孤独や苦しみは我々と近いところにあって、小春の悲痛な心の叫びに共感してしまうところが生まれるのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる