『映画クレヨンしんちゃん』最新作が傑作と言われる理由 子ども向けアニメとしての意義
もうひとつ、本作の「子ども向けアニメ」としての素晴らしさを考える上で欠かせないのが、とあるキャラクターの顛末に関わる部分だ。
『クレヨンしんちゃん』シリーズでは、直接的に揶揄するような場面は滅多にないものの、キャラクターの外見や表情を笑いのネタにするようなシーン、演出は、ときどき見受けられるものであった。
人の生まれ持った外見を揶揄するというのは本来あってはならないことだ。しかし残念ながら、現実にそうした言葉の暴力がなくなることはない。近年でも心ない言葉に耐え兼ねて、自分のやりたいことを断念したというような話を耳にすることがあった。
本作ではそうした心ない言葉に対して、しんちゃん自身の台詞によって明確に「ノー」の意志が示される。同様のメッセージを有した作品はほかにもあるが、しんちゃんという「大人の思い通りにはなりたくない子ども」の代表といえるキャラクターがこれを言い切ったからこそ、胸に響く子どもはきっといるのではないだろうか。『クレヨンしんちゃん』で発したメッセージだからこそ、非常に意義のあることだと思うのだ。
加えて、そうした本作におけるしんちゃんのあり方は、作中で「風間くんがしんちゃんを評して使った言葉」とも完璧に合致するものとなっている。
今作は監督・高橋渉、脚本・うえのきみこという、テレビシリーズに長年携わり、劇場版も複数作を手掛けてきたコンビによる作品だ。
これは前作『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』が、監督に『ラブライブ!』などでお馴染みの京極尚彦、脚本に実写の映画やドラマを中心に活躍する高田亮を起用するなど、シリーズに新風を吹き込む座組だったのとは対照的と言える。
しかし『クレヨンしんちゃん』を知り尽くしているスタッフたちだからこそ、シリーズの「何を変えるべき」で「何を守るべき」なのか深く理解していたーーというのが、『天カス学園』を傑作へと導いた要因のひとつかもしれない。
大人が褒めるような生き方だけが、子どもたちにとって良い生き方ではない。けれど、人と人が関わり合う中で、絶対に超えてはいけない一線は確かに存在する。
風間くんとしんちゃんに少なくない人々が抱いているステレオタイプなイメージを無理なく反転させ、上記のようなメッセージを物語に込める。これに成功したことで、『天カス学園』は正真正銘「2021年にひとりでも多くの子どもたちに観てほしい傑作」となっているのだ。
■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』
全国東宝系にて公開中
原作:臼井儀人(らくだ社)/『月刊まんがタウン』(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
監督:高橋渉
脚本:うえのきみこ
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみほか
特別出演:仲里依紗、フワちゃん、チョコレートプラネット
主題歌:マカロニえんぴつ「はしりがき」 (TOY’S FACTORY)
配給:東宝
製作:シンエイ動画・テレビ朝日・ADKエモーションズ・双葉社
(c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021
公式サイト:shinchan-movie.com