日本のアニメーション業界の一つの希望に TVアニメ『Sonny Boy』に感じる“新たな風”
劇中では、3年生の長良が、教師の言うことに素直に従って、進路を決めようとしていることが窺える場面がある。おそらく彼は、他の人には言いにくい夢があるのだろう。しかし、彼は日常を生きるうちに、その夢を諦めて無気力になっている。その意味で、本作は古典的といえるほど、自分の意志をスポイルさせられる場として、学校を描いていることが分かる。夏目監督が本作を“私小説”と考えているのならば、学生時代の夏目少年が頭に描いた願望は、少なくとも地元の学校の教師たちには通用しないものだったのかもしれない。そして、ある種の諦念を抱えたまま、牢獄のような気分で学校生活を送っていた時期があったのではないだろうか。
だが、そんな諦念と管理と閉塞的な空気に包まれた学校の景色を、本作では転校生の希が一変させてしまう。彼女は学校の周囲に存在する暗闇の虚空の中に向け、一気に走り出し、跳躍する。
学校の中に存在するもの、学校の人々の中だけで通用するルールや常識とは、まったく違うものを、彼女は外界の闇に見ていたのだ。少なくとも一部の人間にとって、本当に必要な“希望”は、学校の外にこそ存在するのである。そして主人公・長良は、希の跳躍によって、どこまでも広がる可能性を、世界に見出したのだ。
おそらく監督は、長良のように、学生時代に“何か”に出会って、世界が一気に広がり、色づいたと思える瞬間を経験しているのだろう。だからこそ、希が走り出すシーンは、おそろしく力の入った、精細かつダイナミックなアニメーション表現がなされているように感じられる。また、このシーンをさらに力強くしているのは、監督が自分の思い通りに好きなものを作るんだという、この作品に注いだ、現在の強い気持ちに他ならないだろう。つまり、過去の夢と現在の意志が、希の疾走と跳躍を、ただの描写から一種の哲学へと昇華させているのである。
今後、『Sonny Boy』の物語がどのように展開し作品全体がどのようなテーマを加えていくのかは分からないが、少なくとも、本シリーズの重要なテーマを反映させただろう、この第1話は、それだけで一つのアニメーション作品として素晴らしいものとして完成しているのは間違いない。
本作が内容的に優れた表現を達成し、他を圧倒しているように感じられる理由は、日本のアニメ業界において、アニメ作家自身によるオリジナル作品が、それほど作られていないという点も無視できないだろう。もちろん、人気ある原作を用意せずアニメの作り手だけにすべてを委ねるのはリスクが大きいし、実際に失敗した例も数多くある。しかし本作が、作り手自身の感情がアニメーションに乗ることで、ここまでの表現が生まれるという一つの例を提示することに成功したのは、確かなことなのだ。そして、この作品自体が放った光は、日本のアニメーション業界の一つの希望ともなったのではないか。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■放送情報
TVアニメ『Sonny Boy』
TOKYO MXにて、7月15日(木)24:30~25:00
BS朝日にて、7月16日(金)23:00~23:30
KBS京都にて、7月15日(木)24:30~25:00
サンテレビにて、7月15日(木)25:00~25:30
青森放送にて、7月16日(金)25:56~26:26
九州朝日放送 にて、7月21日(水)25:40~26:10
熊本県民テレビにて、7月15日(木)25:29~25:59
AT-Xにて、7月16日(金)21:00~21:30
※放送日時は変更になる場合あり。
各サービスにて、7月17日(土)0:00~順次配信スタート
声の出演:市川蒼、大西沙織、悠木碧、小林千晃ほか
監督・脚本:夏目真悟
キャラクター原案:江口寿史
アニメーション制作:マッドハウス
キャラクターデザイン:久貝典史
美術監督:藤野真里(スタジオPablo)
色彩設計:橋本賢
撮影監督:伏原あかね
編集:木村佳史子
音響監督:はたしょう二
音楽アドバイザー:渡辺信一郎
主題歌:銀杏BOYZ「少年少女」
(c)Sonny Boy committee
公式サイト:sonny-boy.net
公式Twitter:@sonnyboy_anime