美 少年 浮所飛貴が大活躍 『胸が鳴るのは君のせい』に見る“キラキラ映画”の男性像の変化

『胸きみ』に見る“キラキラ映画”の現在地

 ところがその結果として、つかさと有馬のコミュニケーション不足が招く誤解の連鎖とその解決というこの作品に必要なテーマとなる部分が欠落してしまう。代わりに他の人とキスをしたということが最大のイベントになったり、原作よりも立たせようとした双方の友人キャラクターたちの扱いが雑になってしまったり、見せ場となりうる文化祭の部分もどこか殺風景なものになってしまうなど、随所に違和感が残る。また有馬とつかさの見せ場となるやりとりにも必然性がなくなることで、さながら「胸キュンスカッと」状態になってしまい映画的なカタルシスがかなり弱まってしまうのである。

 正直これはもったいない。そう思えてしまうのは、やはりこのジャンルには必要なキャスティングの妙が遺憾無く発揮されているから尚更である。ヒロインのつかさを演じる白石聖は、これがキラキラ映画ヒロインの初挑戦とは思えないほどつかさの良さを全力で体現する。頼まれたことを断りきれない優柔不断な不器用さと、それもポジティブに捉えられるような実直さ。『PRINCE OF LEGEND』(日本テレビ)でのドライなヒロイン像や、『I’’s』(BSスカパー!)での男子の理想を凝縮させたような役回りとはまるで異なるその様は、もっとコメディ色の強いキラキラ映画で見たいと思ってしまう。

 またライバル格として登場する麻友役の原菜乃華については、原作とは異なるベクトルで少々やりすぎかと思ってしまうほどの怖さを漂わせ、『アオハライド』の高畑充希のような強力なライバル感をにじませる。同じく長谷部役の板垣瑞生は、本作と同じ「ベツコミ」×東映の座組で作られた『ホットギミック ガールミーツボーイ』でも咬ませ犬的なポジションを演じていたわけだが、相変わらずただの嫌な奴ではない愛嬌あるキャラクターで実に魅力的だ。その爽やかさたるや、とても『映像研には手を出すな!』でロボット愛を叫んで号泣していたのと同じ人物とは思えず、コミュ力は高いが自分自身と向き合うことが下手くそな長谷部のイメージにしっかりと符合していた。

 そして特筆すべきはやはり有馬役の浮所飛高だ。この数年で文字通り“美少年”から美青年へと成長を遂げた浮所だが、バラエティ番組でみせるキャラクター性の強さもあって、正直キャスティングを聞いた段階では有馬役にハマるのかどうか少々心配な部分もあった。

 しかしいざ作品が始まれば、凛々しさと同時に無愛想で何を考えているのかわからないミステリアスさもきちんと体現し、それでいて有馬の得意技であるギャップのある笑顔に浮所の持つキャラクター性が一瞬で解き放たれる。案外多くないジャニーズ俳優の“キラキラ映画”として、Jr.の段階でここまでの大仕事をしてしまうのはかなり将来有望と見える。

 さて、閑話休題。2020年代に入った昨年に公開された“キラキラ映画”は、コメディミュージカルの体裁をとった『私がモテてどうすんだ』に始まり、ライバル不在の中で主人公たちの社会的な立ち位置に注視した『ふりふら』、難病ものという別の潮流の流れを汲んだ『10万分の1』と、いずれも王道路線から外れることで、このジャンルの大量生産の弊害として生じたマンネリ化を脱却する糸口を辿っていった。そこに来て2021年に入ってからは、主人公が大学生であるという点ですでに王道から外れてしまっている『ライアー×ライアー』が本作より先に公開されていた。

 同作ではヒロインが自分を偽って義理の弟と恋仲になるというプロットこそ少し変わり種ではあるが、相手を気遣うあまり嘘から抜け出せなくなるヒロインの不器用さと、素直になれない男性キャラクターの幼さが的確に描写されていくという点で、かつての少女漫画にあったような恋愛への盲目的な“理想”から脱却することに成功していたと感じる。それはまさに、序盤で触れたようにヒロインの実直さによって男性キャラクターが苦悩から解放される『胸きみ』と同様である。こうした現実的な視点は『ふりふら』公開時にも指摘した通り、すでに理想に溢れた青春の煌めきなどというものがファンタジーと化していることに起因した部分であろう。

 いずれにせよ2020年の作品群が新たなエッセンスをプラスすることによって、下火となったジャンルにテコ入れをしようとしていたのに対し、2021年の2作品においては感情の移ろいや成長といったドラマ性を高める基本的な要素をヒロインから男性キャラクターに託すことで、王道らしさを残しながら新しさを与えようとしていることがわかる。おそらく夏に公開を控えている(久々の『りぼん』原作という点で大いに楽しみな)『ハニーレモンソーダ』もその方向性になるのだろうか。偶然にも、この2021年の“キラキラ映画”がすべて次代を担うジャニーズ俳優たちによるものというのも非常に興味深く、そこにもまた大きな変革への目論みがうかがえる。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『胸が鳴るのは君のせい』
全国公開中
出演:浮所飛貴(美 少年/ジャニーズJr.)、白石聖、板垣瑞生、原菜乃華、河村花、若林時英、箭内夢菜、入江海斗、浅川梨奈、RED RICE(湘南乃風)
監督:高橋洋人
脚本:横田理恵
音楽:KYOHEI(Honey L Days)
主題歌:「虹の中で」美 少年/ジャニーズJr.
原作:『胸が鳴るのは君のせい』(紺野りさ/小学館/ベツコミ)
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
制作協力:ドリームプラス
配給:東映
(c)2021 紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会
公式サイト:munekimi-movie.com
公式Twitter::@munekimi_movie
公式Instagram:@munekimi_movie

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