浅野忠信が『おかえりモネ』で見せる哀愁と憂い 数分の登場シーンに込められた求心力

浅野忠信が『おかえりモネ』で見せる哀愁

 連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)には、本作が朝ドラ初出演となる俳優陣が揃っている。浅野忠信もその1人だ。

 浅野は、ヒロインの永浦百音(清原果耶)の幼なじみ・及川亮(永瀬廉)の父親・新次役を演じており、かつては気仙沼のカリスマ的漁師だったが、東日本大震災で自分の船を失ってから、立ち直るきっかけをつかめずくすぶっている。亮の母親の姿が描かれてこないこと、また百音の母親・亜哉子(鈴木京香)が、彼に電話をかける際に電話帳の登録名が「及川美波」という女性名であったことなどを総合して考えると、どうやら新次の喪失は船や仕事へのやる気だけではなさそうだ。もしかすると、新次は妻をも東日本大震災で失ってしまったのかもしれない。

 亡き妻のガラケーで電話に出ながらワンカップを飲む新次の背景には、彼の住まいと思われる仮設住宅が描かれる。楽しそうに花火をする親子の様子など他の家族の営みが否応なしにも間近に伝わってくる仮設住宅の中でひっそりと息を潜めながら1人佇む新次の背中にとんでもない哀愁と憂いが感じられる。ものの数分の登場シーンにもかかわらず一気に心を鷲掴みにされてしまった。

 そう、浅野は、何か“訳あり”で“不吉さ”を感じさせる役どころが本当によくハマる。主演映画『私の男』はその代表作の1つだろう。題材や、主人公の浅野演じる淳悟と養子の花(二階堂ふみ)の危うく歪な共依存的な関係性からしてもかなりの難役だっただろうが、この配役は浅野以外に考えられない程見事なものだった。だらしなくって不健康でどうしようもない人なのに、美形で憎めなくって、だけれどもいつも寂しげで心を決して誰にも明け渡さない。退廃的、だけれども、だからこそ耽美的な作品に見事仕上がっている。

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