松坂桃李が『新聞記者』と対照的な役に 週末のひと時をブラックな笑いで包む『ここぼく』
危機管理がいつの間にか組織の体裁を守ることにすり替わっている日本社会。好感度を保とうとして、私たちはどれだけのものを失くしているのだろう? 『ワンダーウォール』を送り出した作者の視点は、あえて“壁の向こうの人”を本作の主役に据えることで、二極構造の先にある何かをつかみに行っているように見える。体面とポジショニングばかり気にし、本音を隠して愛想を振りまきながら、時に無名のポスドクの叫びに心を打たれる。そこに映し出されているのは、まぎれもない私たち1人ひとりの姿だ。
映画『新聞記者』と真逆の役を演じている松坂。内閣情報調査室の官僚でありながら、国の暗部に切り込んでいく『新聞記者』の杉原と本作の真は対照的なキャラクターだ。真摯に真実を探求する杉原に対して、真はご都合主義の軽薄さをまとっている。共通点もある。どちらも真実を知らされていないことだ。自らの無知に気付いた杉原は行動を起こしたが、世界の複雑さに直面して茫然と立ち尽くす真は、ただただリアルである。
笑って見ているうちに、実は自分たちも真と同じように何も知らされていないことに否応なしに気付かされる。現実を風刺したストーリーにはオブラートにくるんだ毒が仕込まれていて、気付かない間にその毒は全身に回っている。作り手の意図を汲んだ役者陣が織りなす行間のある演技と、解決策を持たない主人公の赤子のように無垢なリアクションによって、迷える視聴者に二重写しのビジョンを提示するのだ。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送 ※4K制作
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK