新文芸坐×新宿武蔵野館×立川シネマシティの担当者が語り合う、コロナ禍以降の映画館

コロナ禍を考える映画館座談会

 新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年。4月には緊急事態宣言が発令され、映画館は一時閉鎖状態にまで陥った。再び1都3県に緊急事態宣言が発令され、業界全体に暗雲が立ち込めている現在、映画館側は一体どのように切り抜き、今後どのように戦っていくのか。

 コロナ禍以降の映画館運営や、配信との同時公開問題、映画館で映画を観る醍醐味などを、立川シネマシティの遠山武志氏、新宿武蔵野館の西島新氏、新文芸坐の花俟良王氏を迎え、語り合ってもらった。(12月某日取材実施)

コロナ禍以降、運営面での変化

ーーコロナ禍以降、座席数の減少や飲食の禁止など、これまでとまったく異なる映画館運営が求められたかと思います。実際に現場ではどのような変化が起きたのでしょうか?

遠山武志(以下、遠山):運営面では、3月末頃から少し怪しくなってきて、土日を休みにすることも出てきて、4月からは完全に休みに入りました。5月末まで、2カ月間フル休館です。6月の1週目から半分の座席でスタートしましたが、閉館中の2カ月はバタバタしましたね。再開の準備、食品の在庫はどうするんだとか。それに加え、再開にあたって検温や消毒といった様々なオペレーションコストがだいぶ上がりました。チケット売り場に十分なスペースを設ける、レジにはアクリル板を付けるとか。座席を半分にした際、それに対応するためのシステムの変更も含めて、再開後もバタバタの半年でした。

西島新(以下、西島):再開時期が全く不明なのもつらかったですね。急に5月後半になって、6月から本当に再開できるのかもしれないとなった時も、どの程度の準備をしていいのか分かりませんでした。手探り状態で、やっとのことで再開できた嬉しさと期待、いざ開けてもお客様に来ていただけるのかという不安。相反する気持ちがずっと連鎖状態でした。

花俟良王(以下、花俟):ロビーに入れる人数なども、シミュレーションして考えました。間引いていくと何人だなとか、休憩スペースの席をシールで半分に限定しないといけないなとか。皆さんそういう苦労があると思いますが、うちの場合は名画座なので、番組編成にも頭を悩ませました。封切り館はお客様が入ったら入ったで普通に伸ばしていくことが可能だと思います。しかし、私たちはがっつり期間を決めてどんどんスケジュールを埋めていかなきゃいけないスタイルなので、お客様が来ないかもしれないのに作品を借りて、お金を払って上映する……その徒労感が半端なかったですね。

――劇場同士の情報連携や、対策を参考し合うことは?

遠山:都心部よりひと足早く再開した他県の映画館がどのような対応をしているのか見に行きました。

西島:シネコンさんがどんな形で再開したのかは私も注視していました。

遠山:チケットをもぎる時に全部手袋しているのかとか、全部チェックして。

花俟:あの時期は本当に試行錯誤でしたよね。興味深いのはどこの劇場もレギュレーションが1週間単位で変わっていったこと。僕らのような小さい劇場は、やはりシネコンさんの取る対策がスタンダードになると思って見に行く。それが2週間後に見に行くと全然違うシステムになっていたので、本当にみんな混乱しているんだなと思いました。うちの場合は、検温と消毒には必ずスタッフを配置するようにしました。だから、そのコストも馬鹿にならない。映画館によっては、検温だけして、消毒をお願いするところもあると思うんですけど、うちの場合は年配のお客様が多いので、「絶対にクラスター的なものはうちから出さないぞ」という気持ちで、必ず自分たちでやっています。

西島:うちも最初は、「検温は家でしてきてください」「体調の悪い人は控えてください」とお客様にお願いしていました。しかし途中からサーモグラフィーによる検温機械を導入して、足踏み式の消毒液も用意するようにいたしました。消毒液も最初はロビーに何箇所かだけ置いていたのを入り口にも置くようにして、より厳しく、徹底して行うようになりました。

――新宿は“夜の街”として一時期糾弾されましたね。

西島:あのときは本当につらかったです。実際、お客様の人数も激減していました。

遠山:新宿のシネコンさんより、立川シネマシティの方が売り上げが良い時もありました。だから都内の方、特に新宿エリアは大変そうでしたね。

――観客層の変化はありましたか?

花俟:これまではコアなシニアの映画ファンの方がよく来てくださったのですが、案の定、年配のお客様は、明らかに減っていきました。なので若い方に向けた番組を編成するんですけど、そこで初めて名画座に来てくれるという人もいます。それが不幸中の幸いというか。そういう新たな展開も出てきているのが事実ですね。

西島:当館もシニア層が再開当初は減ったかなと思っていました。ただ、料金形態の割合をデータで調べると、意外とシニアの方の割合がそんなに減っていないんですよね。印象としては、若い人、普段劇場に来ないような人が増えているイメージがありますが、多分見た目の印象が違うだけで、実際に来ている方はそんなに大きく変わっていないのかなと思いました。シニア層の割合は、平日で30%、高いと40、50%ですね。土日は、10%前後。やはり、朝の回とか、お昼ぐらいまではシニア層が多くて、後半から若年層のお客さんが増えていました。

遠山:当館はそもそも20代~40代がヴォリューム層で、シニア層は全体として10%切ってますね。

――『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開された10月中旬頃から人の流れに変化はありましたか?

花俟:当館と武蔵野館さんでは上映はしていないですが、『鬼滅の刃』の上映は少なくない影響があったと思います。『鬼滅の刃』のおかげで初めて映画館に行ったという人は沢山います。今まで、「配信でいいや、テレビでいいや」と言っていた子供たちが劇場に足を運んで、「映画って面白いな」と思ってくれたというのが、まず、僕らにとっての第一歩。そのお客様たちがどうなってくるか。このままいくと、名画座なんて衰退の一途だと私は思っていたんですが、また映画の楽しみ方というか何か可能性が出てきたかなと思いますね。

西島:うちもお客さんの入りに関しては波がありました。6月1日から再開したんですけど、2〜3週間して、ちょっとずつ人が戻ってきて。お盆時期の8月14日公開の『ポルトガル、夏の終わり』は予想以上のヒットでした。確固たるデータがあるわけではないのですが、『鬼滅の刃』公開以降も、ミニシアターにもその熱が降りてきたような空気はありましたね。

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