上野樹里の言葉をいつまでも胸に 『監察医 朝顔』が描き続けた“今を大切に生きること”

『監察医 朝顔』希望が詰まった最終回

「生きていると悲しいこともつらいこともあるし、幸せなことばかりじゃないけど、それでも私たちは生きていく。この世界で」

 月9ドラマでは初の2クール放送として昨年の11月2日よりスタートした『監察医 朝顔』(フジテレビ系)が最終回を迎えた。当たり前に流れていくこの日常、今を大切に生きること。このシーズン2で作品が伝えていたのは、そんな誰もが分かっていながらもいつの間にか忘れてしまう、心のあり方のように思う。

 2019年放送のシーズン1から一貫していたのはスリリングな事件と表裏一体にある家族の日常。食卓を囲む朝ごはんと夜ご飯に、1日の疲れを癒すお風呂、そして朝顔(上野樹里)、つぐみ(加藤柚凪)、桑原(風間俊介)で川の字になっての就寝。丁寧で温かな生活描写が、平(時任三郎)を含めたこの一家の毎日をいつまでも観ていたいと、作品自体の大きな魅力に繋がっていた。

 第2シーズンにて新たに描かれたのは、里子(石田ひかり)の遺体を巡る東日本大震災、さらに平が発症するアルツハイマー型認知症についてだ。遺族にとって消えない後悔と幸せの形。被災した者、遠くで何も出来なかった者、それぞれ当事者にしか分からない悲しみと苦しみの念。娘を亡くした浩之を演じた柄本明の名演を中心に、胸に迫る一つひとつのシーンが、視聴者にまた新たな角度から3月11日を考えさせるきっかけとなった。

 クランクインした2019年の第1シーズンに始まり、図らずも第2シーズンのクランクアップの地になったという岩手県陸前高田市をはじめとした被災地に寄り添い続けたキャスト・製作陣だからこそ伝えられるメッセージがある。

 仙ノ浦から神奈川の家に帰ってきた平は「あとどれぐらい残ってるか分からないけど、自分に残された時間を朝顔たちと楽しく生きる」と誓った。愛おしいつぐみの名前も忘れてしまうほど、残酷にも悪化していく症状。リハビリホームを紹介し、人生の後片付けを援助する茶子(山口智子)の手助けもあり、平は朝顔と桑原が挙げる結婚式で7分に及ぶスピーチを読む。毎日が楽しく幸せなこと。妻の命日でもある3月11日が今年は大切な日になったこと。スピーチを読み終え拍手を贈られる平が小さな声でつぶやく「今日のこと忘れたくないな……」という原稿には書いていないアドリブの一言が、彼の心情をありありと表している。

 1年後、卒園式を迎えたつぐみ。出席した平は、症状がさらに悪化しているのか無の表情を浮かべている。式で歌われるのは「マイ・ウェイ」。奇しくも、里子が学生時代にコンクールでピアノ伴奏を弾いていた、家族にとっても思い出の詰まった楽曲。大きな声で愛らしく歌うつぐみの姿を見て、平は表情にゆっくりと光が漲っていき「可愛いな」とつぶやく。横には里子の名前から命名したと思われる次女・里実を抱える朝顔。未来への希望が詰まったラストシーンだ。朝顔のスマホで録音していた平の里子との馴れ初め話がエンドロールで流れていたのも、終わらない日常の延長線のようで温かい気持ちになった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる