魔法学校卒業後、死体になり、武器人間となる ダニエル・ラドクリフのキテレツ俳優道
そして2016年、ダニエル・ラドクリフは『スイス・アーミー・マン』の死体役で世界の映画ファンをざわつかせた。サンダンス映画祭でプレミア上映された同作では、ポール・ダノ演じる青年ハンクが漂流した無人島で死体を発見する。その死体を演じたのがラドクリフだ。死体はおならでジェットスキーのように水上を移動し、雨水が体内に溜め込まれたことによって飲料水の供給源となる。そしてついには言葉をしゃべるようになり、ハンクはメニーと名乗る死体と楽しい遭難生活を過ごすことになるのだ。彼は生きていたころの記憶がないため、ハンクがさまざまなことを教える。そんな日々のなかで、2人はお互いにかけがえのない存在になっていく。
奇抜すぎる設定とストーリー展開の同作は、下ネタ多めのブラックユーモアにあふれ、なぜか感動のラストを迎える。死体なのに言葉を話し、驚きの機能をたくさん搭載しているメニー。不気味な見た目と無垢な精神、死んでいるのに年相応の欲求も持ち合わせた彼を、ラドクリフは不思議なほど自然に演じている。わけのわからない作品のわけのわからない役を、ここまで好感の持てる演技で表現できる俳優はなかなかいないだろう。作品は賛否両論ながら、肯定派には主演のダノとラドクリフの演技を高く評価する声が多い。同作でラドクリフは、シッチェス・カタロニア国際映画祭の主演男優賞を獲得した。この前代未聞の役は、彼の新たな代名詞とも言えるのではないだろうか。
同じく2016年、ラドクリフはジェシー・アイゼンバーグ主演の『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』に出演する。久しぶりのビッグバジェット映画だが、彼が演じたのは悪役だ。天才エンジニア、ウォルター・メイブリーはアイゼンバーグ演じるアトラス率いる“フォー・ホース・メン”に、世界中のコンピューターをハッキングすることができるチップを盗み出すよう強要する。同作でのラドクリフの嫌味で邪悪な演技は、ほかの作品では見ることができない新境地だった。
そして2021年に日本公開された『ガンズ・アキンボ』では、『スイス・アーミー・マン』の死体役に迫る、とんでもない役を演じることになる。ラドクリフが演じるのは、両手に拳銃を固定された冴えないゲームクリエイター、マイルズだ。
鬱屈した日常を送る彼の唯一の楽しみは、ネットに過激なコメントを書き込むことだった。ある日彼は違法な格闘技動画を見て、いつものようにコメントを書き込む。するとそれを見て怒った主催者は彼の住所を特定し、部下に拉致させる。マイルズが目を覚ますと、彼の両手にはボルトで拳銃が固定されていた。そして最凶の殺し屋ニックスとのデスゲームに放り込まれてしまうのだ。マイルズは両手が銃のため、日常生活もままならない。そんな状態で殺し屋から逃げ惑う情けない姿を熱演するラドクリフは、またしてもわけのわからない映画でその演技力を見せつける。同作はバイオレンスと笑いに満ちたバカっぽい世界観だが、実は現代の我々に通じる姿を描き出しているのだ。その魅力を引き出すのがダニエル・ラドクリフだと言っていい。
大ヒットシリーズで成功した子役から、超個性派俳優になったダニエル・ラドクリフ。その出演作選びは独特で極端だ。しかしいまや、それが彼の魅力ともなっている。これから彼は、その実力でどんなとんでもない役を演じてくれるのか。今後の活躍にも期待せずにはいられない。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、10代は演劇に捧げる。
■公開情報
『ガンズ・アキンボ』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本:ジェイソン・レイ・ハウデン
製作:ジョー・ニューローター、フェリペ・マリーノ、トム・ハーン
出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィーヴィング、ネッド・デネヒー、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、リス・ダービー
提供:ポニーキャニオン/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ポニーキャニオン
2019年/イギリス・ドイツ・ニュージーランド/カラー/スコープサイズ/英語/原題:Guns Akimbo/98分/R-15
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公式サイト:guns-akimbo.jp