『ハリー・ポッターと賢者の石』が夢想させる“ここではないどこか” 当時の熱狂を振り返る

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開間もなくとんでもない観客動員数、興行収入を叩き出しているが、今から約20年前、同じように小中学生を中心に皆がその上映を心待ちにした作品があった。そう、10月23日の『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で放送される『ハリー・ポッターと賢者の石』だ。

 アラサーの筆者は小学生の頃に原作本が流行り、中学生の頃に映画館に足を運んだのを覚えている。辞書のように分厚く、ところどころ太字、かつフォントサイズが大きくなるあの独特な書式までいまだにはっきりと思い出せる。少しでも早くその結末が知りたくて、本当に徹夜して読み耽った思い出の作品だ。普段全く読書から縁遠い、ゲームや漫画派だったクラスメイトたちもこぞって貪り読んでいた記憶があるので、同世代にはこの作品が初めてのちゃんとした読書体験という人も少なくないのではないだろうか。

 この『ハリー・ポッター』シリーズ小説7作は、世界200か国79言語に翻訳され、全発行部数は4億5000万冊を超える全世界的ベストセラーとなった。そして映画は8本と長編シリーズ化され(ちなみに本作のスピンオフ作品である『ファンタスティック・ビースト』シリーズは全5作の公開が予定されており、第2弾までが公開済みだ)、今回の『賢者の石』は記念すべき1作目となる。

 当時、本の中で広がるホグワーツ魔法魔術学校やダンブルドア校長先生がどう映像化されるのか、アミューズメントパークに行くかのような心持ちで、はやる気持ちを抑えながらスクリーンに向かった。入学準備のためにグッズを買い揃える市場には特に感激し、見事に再現された世界観に度肝を抜かされた。

 そもそも本作の設定には、子どもの頃に誰しもが一度は望んだことがあるだろう願望が見事に反映されている。家庭にも居場所がなくいじめられっ子のハリーが、実は魔法界では“とっておきの存在”で、誰もが自分のことを歓迎してくれる。“ここではないどこかへ行きたい”、“自分は特別な存在だと信じたい”、“今いる世界以外に自分が輝ける場所がきっとあるはず”そんな思いを叶えてくれるストーリーは、多感な時期にある少年少女の心を掴んだはずだ。

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