魔法学校卒業後、死体になり、武器人間となる ダニエル・ラドクリフのキテレツ俳優道

ダニエル・ラドクリフの俳優道

 子役として成功した俳優が、その後のキャリアを築くのは難しいと言われている。多くは幼いころ演じた役のイメージから抜け出せず、大人の俳優として認められるのに苦労するものだ。しかし例外もある。『ハリー・ポッター』シリーズで世界的に有名になった元子役たちだ。その代表格は、やはり実写映画『美女と野獣』で主演を務めたエマ・ワトソンだろう。しかし一方で、シリーズの主人公ハリーを演じたダニエル・ラドクリフもまた、現在も第一線で活躍している。ただ、その在り方は元大人気子役としては少々変わっていると言わざるを得ない。彼はホグワーツ卒業後、かなりトリッキーな出演作選びをしているのだ。ハリー・ポッターのイメージを覆してきた彼の俳優道とは、一体どんなものなのだろうか。

ホグワーツ卒業後、舞台で経験を積む

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(c)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. HARRY POTTER PUBLISHING RIGHTS (c)J.K.R. HARRY POTTER CHARACTERS, NAMES AND RELATED INDICIA ARE TRADEMARKS OF AND (c)WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

 映画シリーズ完結前の2007年、ダニエル・ラドクリフは舞台『エクウス』でブロードウェイデビューを果たした。彼は“ハリー・ポッター後”のキャリアを見据えて、一旦スクリーンから離れることにしたようだ。同作は、ラドクリフが舞台上で全裸になることでも話題になった。彼は相手役の女優とともに、ベッドシーンを一糸まとわぬ姿で演じたのだ。彼自身、“少年”であるハリー・ポッターのイメージから脱皮したいという思いで、この役を選んだのかもしれない。そして2011年には、『努力しないで成功する方法』でミュージカルに初挑戦。同作は10カ月に及ぶロングランを記録。その年のトニー賞で9部門にノミネートされるなど、高い評価を受ける。こうしてラドクリフには、舞台俳優としての道も開けた。以降彼は、舞台と映像作品の両方で活躍するようになる。しかし映像作品の方はというと、その後『ハリー・ポッター』のような大作には出演しなくなった。

インディペンデント映画に多く出演する理由とは?

 『ハリー・ポッター』シリーズ終了以降、ラドクリフはだいたい年に1~3本の映画に出演している。しかしカメオ出演を除くこれらの14作品中、5作品が日本劇場未公開、もしくはイベントなどでの限定公開となった。つまり彼は日本でも注目度の高いビッグバジェット作品にはほとんど出演せず、ある意味地味なインディペンデント映画ばかりに出ているのだ。そこには、元大人気子役ならではの理由があるという。

 『ハリー・ポッター』シリーズで莫大な出演料を得た彼は、2010年の時点で総資産が約4,560万ポンド(約59億円)と言われていた。その後、ニューヨークやロンドンの高級住宅街に不動産を購入し、現在はその賃貸料も収入になっているという。つまり彼は、生活のために俳優業をつづける必要は全くないということだ。そのため「出たい作品」「演じたい役」を基準に、出演作を選んでいると言われている。そうした状況のなかで、“ハリー・ポッター後”のラドクリフの出演作や演じる役どころは、奇抜で珍妙なものが特に目を引く。

角が生え、死体になり、そして武器人間に

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 舞台で子役のイメージを削ぎ落としたラドクリフは、その後スクリーンの世界に戻ってくる。彼は『ハリー・ポッター』シリーズ完結の翌年である2012年には、ゴシックホラー『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』に出演した。19世紀のイギリスを舞台にしたこの作品で、彼は妻を亡くした子持ちの弁護士を演じている。愛する者を失った人間の悲哀、そして子供を守ろうとする親の強さを説得力を持って演じ、ハリーという“若者”のイメージを覆す。

 2015年に日本公開された『ホーンズ 容疑者と告白の角』では、ラドクリフ演じるイグの額にある日突然、稲妻形の傷ではなく悪魔のような角が現れる。恋人殺しの容疑者である彼の角には、それを見た相手が知らぬ間に自分の秘密を話すようになるという力があった。イグはその力を使って真犯人を探すのだが、これがなんとも不思議な作品なのだ。ダークファンタジー的な設定、人々が語る秘密にはブラックユーモアが効き、殺人事件の真犯人を探すミステリーと、さまざまな要素が詰め込まれた盛りだくさんのストーリーになっている。同作で煙草を吹かして酒をあおり、青白い顔でFワードを連発するラドクリフに、ハリー・ポッターの面影はもうない。良い意味で、子役時代のイメージはきれいさっぱりなくなっている。

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