野村萬斎は日本の“ポアロ”を象徴 三谷幸喜版『死との約束』は“極上”のミステリー×喜劇に

『死との約束』は“極上”のミステリー×喜劇

 極上のミステリが極上の喜劇と出会ったら。アガサ・クリスティー原作の同名小説を三谷幸喜が脚本した『死との約束』がフジテレビ系にて3月6日21時から放送される。

 本作は、アガサ・クリスティー原作×三谷幸喜脚本×野村萬斎主演で映像化されているSPドラマシリーズの第3弾。過去には『オリエント急行の殺人』を原作とする『オリエント急行殺人事件』(2015年)、『アクロイド殺し』を原作とする『黒井戸殺し』(2018年)が放送され人気を博した、注目のシリーズだ。

 『死との約束』の原作はクリスティーの中近東シリーズの3作目でありエルサレムとペトラ遺跡を舞台に物語が展開するが、三谷はその舞台を“巡礼の道”として世界遺産にも登録されている熊野古道に移す。さらに時代設定を昭和30年代に置き換え、日本版として物語を昇華した。

 一足早く鑑賞した本作は、時代を映すモダンなファッションや、主人公・勝呂武尊(野村萬斎)のモデルであるエルキュール・ポアロの特徴がふんだんに盛り込まれた萬斎の芝居など、映像の端々まで多くの魅力が散りばめられていた。今回は放送を前に『死との約束』の見どころを紹介したい。

鈴木京香が吹かせるロマンスの風

 登場人物が多く入り乱れ、複雑に絡み合う様子を見事にローカライズした三谷。得意の群像劇と喜劇を色濃く反映し、三谷作品常連から初出演となる役者までが息の合った芝居で事件の真相へと導いていく。上杉穂波を演じる鈴木京香は、その妖艶な魅力と芯の強さを感じさせる凛とした表情で本作に淡いロマンスの風を吹かせる。さらに本堂家の長男・本堂礼一郎を演じる山本耕史の独特の佇まいからは、礼一郎が背負ってきた過去がひしひしと感じられる。今回、本堂家に渦巻く家族の“問題”が大きく事件に関与することもあり、礼一郎の仕草やセリフから滲み出る“過去から脱却できない苦しみ”は、重要なエッセンスとなっているだろう。他にも阿南健治やシルビア・グラブなど、これまでに三谷作品で活躍した俳優たちが継承する空気感も見どころとなる。

 さらにそこに新たなスパイスとして加わるのが、松坂慶子と市原隼人、堀田真由、坪倉由幸(我が家)だ。日本映画を代表する女優・松坂慶子がその堂々とした佇まいで演じるのは、強烈な人柄で一家を牛耳る本堂婦人である。その本藤家の次男・主水役の市原と長女・鏡子役の堀田はどちらも三谷作品初出演ながら、重要なポジションを演じ切った。特に鏡子がその立場故に抱える不安や憎しみを、か細い声と繊細な芝居で表現した堀田の存在は、ミステリという答えの見えない迷路を彷徨う視聴者の不安とスリルに拍車をかける。そんな中、税理士・十文字幸太を演じた坪倉由幸はコメディアンとしての“間”のセンスの良さを遺憾なく発揮し、『死との約束』における喜劇的表現に一役買う場面もあった。

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