製作者にとっては“制約”も? 相次ぐ『週刊少年ジャンプ』作品アニメ化について考える

 さて、このように一定の傾向があるジャンプ作品をアニメ化するときに、アニメ製作者にとってはさらなる制約が待っている。それは、原作の内容を改変することが非常に難しいという点だ。様々なジャンプ作品原作のアニメを鑑賞していると、とくに近年は漫画の内容を、ほとんどそのまま映像化しているように見えるのである。『鬼滅の刃』や『ハイキュー!!』のアニメ版のように、力のあるスタジオがディテールを豪華に、アクションの部分をこだわりの技術で描くことで魅了するように、ほとんどごく限定された範囲でしかクリエイティビティを発揮することが許されていないのではないかと思える瞬間が、何度も訪れる。

 ちなみに、例外的に『約束のネバーランド』は、2期でストーリーの変更が見られるが、これはおそらく製作上の都合が関係していて、綿密な原作者との話し合いがあったはずだ。また、アメリカ製作の『DEATH NOTE』は、アメリカの観客を中心に楽しませるという意味で、大幅に改変しなければならなかったのは当然といえる。

 基本的にストーリーの改変を、『週刊少年ジャンプ』や集英社が望まないのも当たり前で、とくに連載中の原作が存在している場合、ストーリーをいじることで整合性が取れなくなるリスク生じる可能性がある。近年は、基本的には改変しないという合意のもとで作品をスタジオに任せるという取り決めが強化されている傾向にあるはずで、鑑賞する側も、そのことをある程度承知しているからこそ、ジャンプ作品のアニメは、アニメ監督の名前がそれほど注目されなくなっているのである。

 たしかにアンケートで人気を得て勝ち抜いてきた実績のある作品には、いずれも光るものがあり、それをアニメーション監督が塗り替えることで、さらに素晴らしい作品に生まれ変わるかどうかは大きな賭けであるといえよう。『鬼滅の刃』のような成功例もある以上、そんな監督まかせのリスクを引き受ける必要性は、出版社側には無くなってきているはずだ。

 しかし、同時にそこには落とし穴も存在する。人気を得ているジャンプ作品にも、至らない部分が存在することも確かなのだ。『週刊少年ジャンプ』は、編集部の方針として、作品としての総合的な質がそれほど高くなくても、長所や可能性を見つけて、そこを伸ばしていくという面がある。それが結果として、多くの読者を惹きつける表現を生み出すことになっているのは素晴らしい。だが、それだけに作家ごとに弱点がある場合も少なくない。ギャグ表現がうまくいっていなかったり、時代の流れに合わない表現や、説明不足な点が見られるときもある。週刊連載という激務のなかで描かれたということを考えても、仕方ない部分があるだろう。われわれは近年、そんな部分すら忠実にアニメ化されているところを見ているのである。これでは、せっかくアニメが後発の作品として発表されているにもかかわらず、そのアドバンテージが活かしきれていないということになる。

 ある程度の例外もあるが、これまで述べてきたようにジャンプ作品を基にした映像作品、とりわけアニメーションは、かなり製作側に制約が課されるというのが現実だろう。それに慣れている視聴者側も、SNSで原作との細かな違いに異議を唱えるケースが増えているように、アニメ監督などの演出上のスタンドプレーや、過度なクリエイティビティを望まなくなっている傾向にあるといえる。そして、良くも悪くもそれらアニメーション作品に、本来オリジナル作品ならば必要ないはずの雑誌のカラーが反映してしまうのも確かなのだ。

 今後、『君の名は。』のブーム後のように、ジャンプを中心とした漫画原作アニメに、より注目が集まり、その製作に拍車がかかるのは間違いないだろう。もちろん、『鬼滅の刃』は日本の映画興行を、かなりの部分で救うという功績を打ち立てたといえるし、映画やアニメファンとして感謝すべきところは非常に多い。だが、それが今後、日本のアニメ製作の未来を良い方向に転がしていくかどうかということについては、疑問を感じる部分もあるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔、石田彰
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる