『劇場版ポルノグラファー』は完璧な実写化に 純文学のような美しく繊細なラブストーリー
「幸せな人間に文学はいらない」
これは木島がかつて師事していた大石吾朗演じる官能小説家の蒲生田郁夫に語る印象的な言葉。木島は自分に自信がなく、幸せな環境に身を置くことを極端に怖がっている。愛すれば愛するほど失うのが怖くて、自ら大切なひとを手放してしまうこじらせた大人。だが故にミステリアスな色気を放ち、異性だろうと同性だろうと関わったが最後、彼の魅力にたちまち虜になってしまう。
そして、そんな木島が無意識のうちに張った蜘蛛の糸に久住も引っかかった。ドラマではその純粋さ故に木島がついた嘘を信じ込んでしまい、翻弄されっぱなしだった久住。劇場版で注目してほしいのは、大学生から社会人になった彼の成長ぶりだ。
どんな恋愛も恋人同士になって、それで終わりではない。結ばれた先にこそ困難があり、立ちはだかる数々の壁を乗り越え、相手の未来を背負う覚悟が必要になってくる。それは誰にとっても容易いことではないが、自ら孤独を選んできた木島にとってはさらに難しい問題だ。「こんな自分が久住という未来ある若者の人生を縛ってもいいのか」という彼の苦悩も理解できる。
しかし、本作では2年半という長い月日に木島への想いを募らせた久住が包容力を発揮する。決して一方通行ではない、相手の生き方や孤独をまるごと受け入れる久住の大きな愛情と、その温かさに包まれ、不器用ながら変化を見せる木島の姿が“人と人が想い合う”ことの尊さを教えてくれるはずだ。
また、今回は城戸だけではなく、木島の家族をはじめ2人を取り巻く人物が多数登場する。中でも本作のキーパーソンとなるのが、松本若菜と奥野壮演じる明実親子。“ただ愛し合っている”というだけでは平穏に生きていけず、ぶつかり傷つけ合ってしまう木島と久住の間に入る第三者の存在が何をもたらすのか。それはぜひ劇場で見届けてほしいと思う。
冒頭で紹介したエピソードにように、かつては隠れて楽しむ人が多かったBL作品。しかし、他者を好きになることで目を背けていた自分自身の問題に直面したり、好きだという気持ちだけでは乗り越えられない壁にぶつかったりと、普遍的な恋愛のテーマを描いた作品が異性愛、同性愛の隔たりを壊しつつある。『劇場版ポルノグラファー ~プレイバック~』は昨年から続くBL実写ブームを牽引する2021年最初の作品となるだろう。
■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。
■公開情報
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
2月26日(金)公開
出演:竹財輝之助、猪塚健太、松本若菜、奥野壮、小林涼子、前野朋哉、吉田宗洋、大石吾朗
原作:丸木戸マキ(『續・ポルノグラファー プレイバック』祥伝社 on BLUE comics)
監督:三木康一郎
主題歌:鬼束ちひろ「スロウダンス」(ビクタ-エンタテインメント)
製作:松竹開発企画部
制作:株式会社フジテレビジョン
配給:松竹ODS事業室
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公式サイト:https://pornographer-movie.jp/