大倉忠義が『知ってるワイフ』で表現する“余白” ブランクを経て多面的な個性派に

 木曜劇場『知ってるワイフ』(フジテレビ系)は過去を変えようとする男の物語だ。タイムスリップファンタジーの中心にいるのは大倉忠義。関ジャニ∞のメンバーである大倉は、俳優として独自の軌跡を歩んできた。

 イケメンという形容詞は、大倉を言い表すのに十分とはいえない。自然体でありながら奥行きを感じさせる演技が大倉の持ち味だ。大倉のドラマデビューはジャニーズJr.時代の2000年。2009年には『ROMES 空港防御システム』(NHK総合)で連続ドラマ初主演、2013年に『100回泣くこと』で映画単独初主演を飾るなど、俳優としての評価を着実に上げてきた。

 『知ってるワイフ』で大倉が演じるのは銀行員の剣崎元春。学生時代に知り合った妻の澪(広瀬アリス)と結婚し、2人の子どもに恵まれた。幸せな結婚生活と言いたいところだが、実は鬼嫁の澪に叱られる毎日。家に帰るとスリッパが飛んできて、唯一の娯楽であるゲーム機は風呂に沈められる。仕事は失敗続きで家にも居場所がない。そんな現実を変えたいと思ったある日、謎の男・小池(生瀬勝久)から過去に戻れる500円玉を渡され、2010年にタイムスリップする。

 過去と現在をめぐるストーリーで鍵を握るのが元春のキャラクターだ。大倉によると、元春は「自分を偽らず、おこった問題を素直に受けとめることは出来るんですけど、どこか優柔不断。決して悪い男ではないんですけど」という人物(参考:インタビュー|『知ってるワイフ』公式サイト)。優柔不断な主人公は、人生をやり直すという本作のテーマを背負っており、元春の感情のうねりがドラマの基軸になっている。

 人生をやり直すことは、前の人生で得た出会いや経験を置いていくことを意味する。理想の生活を過ごしながらも、過去の記憶との間で揺れる元春は、澪と過ごした時間を思い出し、大切な存在であったことに気がつく。失ったものの大きさに気付いた元春は、後悔の念に苛まれる。元春が見せる迷いや葛藤を大倉が丁寧に拾うことによって、単なるタイムスリップものとは違う人間ドラマとしての説得力が生まれている。

 ここ数年の大倉を見ていると、細かな表現の中に大人の苦さや色香がにじみ出ており、役作りにも反映されているように感じる。たとえば『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)の南条幸男。主人公のモンテ・クリスト・真海こと柴門暖(ディーン・フジオカ)に復讐される幸男は根っからの悪人ではなく、妻子を愛する家庭人だ。しかしその裏では嫉妬心から暖を陥れ、すみれ(山本美月)を奪う。笑顔の陰で罪を隠して生きる生々しい人間像を画面に現した。

 また、昨年9月に公開された『窮鼠はチーズの夢を見る』では、主人公・大伴恭一を演じた。恭一は後輩の渉(成田凌)に強いられて一線を超える。流されやすく、求められるがままに女性たちと関係を結んできた恭一が、渉によって自分の本心に気付かされる過程で、男心の微妙な揺れを視線や動作から醸し出した。

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