『その女、ジルバ』が教えてくれる“笑うこと”の大切さ 心に染みる熟女バーの人々の言葉

『その女、ジルバ』が描く笑うことの大切さ

辛さを口にできない人をどう描くか

 だけど、世の中には自分の辛さをうまく吐き出せない人がいる。たとえば、新の同僚・スミレ(江口のりこ)はそうだろう。最初は気難しい性格に見えたスミレだが、距離が近づくにつれて、責任感があって、仲間想いの情に厚い人だということがわかってきた。

 チーママ(中尾ミエ)にスミレを紹介するとき、新は「同僚」でも「上司」でもなく「友達」と呼んだ。スミレはそれにちょっと驚いて、でもうれしそうだった。いくつになっても、たとえ職場でも、友情を築けることが、大人になるとこの上なくうれしくなる。

 だけど、そんな新にも、スミレは自分に親がいないことは話していない。パワハラを理由に希望退職を持ちかけられたことも黙ったままだ。真面目で優しいスミレだからこそ、うまく頼れないのだろう。SOSを出せないのだろう。でも、そんな人がいちばん追いつめられやすいことを、私たちもよく知っている。2月6日放送の第5話で、スミレがうまく辛さを吐き出せるようになったらいいな、と思う。

社会が抱える辛さまで包み込む

 人生は、辛いことが多い。だけど、辛いことを無理して誤魔化さなくていい。辛いことはそんなに簡単に忘れられないし、傷は容易く癒えはしない。そのときのことを話すだけで、涙が止まらなくなるような過去を、生きていればみんなひとつやふたつ持っているものだ。

 『その女、ジルバ』は過剰に優しさに走るわけでもなく、世の中のしんどさに見ないふりをするわけでもなく、辛いことを辛いと受け止めたうえで、泣きなかったら泣けばいい、とどんと構えてくれる。そして泣き止んだら一緒にお酒でも飲んで、踊って、笑おう、と肩を抱いてくれるから、じんわりと心に沁みる。

 それに、確かに人生は辛いことが多いけれど、辛いことばかりでもない。うれしいことももちろんある。そのときはあのラインダンスのように、喜びも分かち合い、共に祝おうと手を引いてくれるから、いつも観終わったあとに元気が出るのだ。

 第4話では、新の弟・光(金井浩人)を通じて、福島が東日本大震災で負った傷と、その傷を抱えながら今を生きる人々の声が描かれた。次の3月で、震災から10年となる。そんな今、『その女、ジルバ』が放送されることは、とても意義深いように思う。

 そして第1話の冒頭でマスク姿の新が福島へ帰省したように、このドラマはコロナ禍によって傷ついた世界まで描くつもりらしい。個人の辛さだけでなく、社会全体が抱える辛さにまで、つくり手たちの目線は向いている。

 たくさんの人が辛さを抱えている今だからこそ、『その女、ジルバ』が強張った背筋をほんの少しでもほぐすものになったらいいなと思う。そして、このドラマを観て、ひとりでも多くの人が「これからまだまだいいことがある」と笑顔になれたら、ただの視聴者である自分まで幸せな気持ちになる。

 本物の「OLD JACK&ROSE」はこの世にはないかもしれないけれど、画面を通してこの世界を共有している間は、私もあなたも同じ「OLD JACK&ROSE」の常連客だから。そう感じさせてくれる温かさが、『その女、ジルバ』には息づいている。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
『その女、ジルバ』
東海テレビ・フジテレビ系にて、毎週土曜23:40~24:35放送【全10回(予定)】
出演:池脇千鶴、江口のりこ、真飛聖、山崎樹範、中尾ミエ、久本雅美、草村礼子、中田喜子、品川徹、草笛光子
企画:市野直親(東海テレビ)
原作:『その女、 ジルバ』(有間しのぶ、 小学館『ビッグコミックス』刊)
脚本:吉田紀子
音楽:吉川慶、HAL
監督:村上牧人、根本和政、室井岳人
プロデューサー:遠山圭介(東海テレビ)、松本圭右 (東海テレビ)、雫石瑞穂(テレパック)、 黒沢淳(テレパック)
制作:東海テレビ、テレパック
(c)東海テレビ
公式サイト:https://www.tokai-tv.com/jitterbug/

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