山口つばさの圧倒的な構図はどう活かされる? アニメ『ブルーピリオド』への期待 

 漫画『ブルーピリオド』が、2021年にアニメ化がすることが発表された。美大を目指す高校生の青春を描いた本格美術漫画として人気を博し、「マンガ大賞2020」では大賞を獲得した本作のアニメ化は、高い期待と喜びをもってファンに受け止められた。「美術の世界」を真正面から描いた『ブルーピリオド』の魅力を改めて紐解くとともに、アニメ化で期待される見どころについて考察したい。

「絵でどこまで表現できるか」への挑戦

 要領がよく、それゆえに何にも本気になれずにいた高校生・矢口八虎。だがある時、美術の授業で描いた絵を褒められたことで、何かに夢中になることを知った八虎は、日本一の受験倍率を誇る東京藝術大学を目指すことを決める。それが『ブルーピリオド』の物語の導入だ。

 『ブルーピリオド』の最大の特徴と功績は、「美術」、そして「美大受験」という知る人ぞ知る世界に真正面から切り込み、かつそれを多くの人がわかるように解き明かしてみせたことだろう。

俺はピカソの絵の良さがわかんないから/それが一番スゴイとされる美術のことは理解できない

 物語の最初の八虎のモノローグだ。名作とされ、高い価値をつけられた美術品を見ても、どこが良いのかよくわからない。それは多くの人が感じたことがあることではないだろうか。感覚的で、かつ専門的。「わからないもの」として敬遠されがちな美術という分野について、どうやって漫画でわかりやすく、説得力をもって表現するか。それは、「絵でどこまで表現できるか」への挑戦でもある。

 作中では、素人である八虎を相手に、美術部の顧問や予備校の先生などが、基本的なところから美術というものについて解説していく。例えば、平面の絵の中で近い・遠いを表現する遠近法の技術。名画に潜む「いい構図」のセオリー。美術品の鑑賞の仕方。

 読み進めていくうち、「感覚的でよくわからないもの」だった美術が意外にロジカルなものであることがわかってくる。セリフだけでなく視覚的なわかりやすさも工夫されていて、実際の学生の絵をキャラクターの作品として使用することで、絵の個性や技術の差、成長度合いなどが素人目にも理解しやすいつくりだ。

 自身も藝大出身の作者・山口つばさの構図の巧みさも圧倒的だ。予備校で「わたしの大事なもの」という課題を与えられた八虎。自分を美術の道に導いた人との「縁」について描こうと決めたものの、それをなかなか絵で表現できない。様々なモチーフを試してはダメだしされ、ドツボにはまっていく。散々もがいた末に八虎がたどり着いたのは、「自分にとっての『縁』は金属に似ている」という結論だった。自分なりの答えを掴んだ八虎が、細長い金属片のようなものが飛び交うイメージの中で、キャンバスに向かう姿を描いた見開きページは圧巻だ。

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