『夢中さ、きみに。』映像化の狙いは? 原作へのリスペクトと「交差点」のアレンジ

『夢中さ、きみに。』映像化の狙いは?

 しかも、原作では独立したパートで綴られる交じり合わない人々の日常がなんともおかしいのだが、ドラマでは「お嬢様女子校に通う読書好きのオタク」松屋めぐみを演じる福本莉子をつなぎ役にして、交差点でそれぞれの人々が交錯する立体感を持たせている。これはドラマならではの面白さだろう。

 和山氏の漫画では、公園で考え事をしている人物の背後で散歩中の犬がフンをしていたり、スマホをいじる人物の脇で妹が宿題をしていたり、家で弟妹の相手をしている人物の手に妹がクレヨンで落書きしていたり、窓際にハトがいて、会話しながら与えた干し芋をハトが後に吐いていたりする。もともと同作では、教室ではあまり光のあたらない、ちょっと変わった高校生たちをクローズアップしているが、さらにそうした人たちの背景にあるモノや人など、細部に至るまで細やかに愛情たっぷりにささやかな光をあてている。

 だから、登場人物の言動にクスリとさせられる一方で、ひそかに妙なことをしている背景や脇の人に思わずクスリとしてしまうことも多いのだが、淡々とした静かな絵1枚に盛り込まれた情報量の多さを、そのままドラマの画で再現すると、視聴者には発見されないまま流れていってしまう可能性が高い。

 その二次元ならではの時間の流れ方や空気感をそのまま三次元に持ち込むのではなく、「交差点」という場所を軸にして人と人とのつながりを作り、立体化させるとは、非常に面白いアレンジだ。

 ちなみに、原作では中学時代にモテまくったことがトラウマとなっている二階堂の思い出について、かつての同級生女子・佐藤が「中1の頃なんかは特にジャニーズジュニアみたいに可愛くってさ~」と語るシーンがある。しかし、本物のジャニーズJr.を主演に据えながら、二階堂役にするのではなく、ミステリアスな不思議ちゃん・林にしたのは、意表を突いている。しかし、目が合った同級生に「本を読んでた僕がかわいかった?」と聞くくだりなどは、「あざとカワイイ男子」大西のキャラが存分に生かされている。

 逆に、モテを必死で封印して陰キャになっている二階堂を演じている高橋文哉の素晴らしさは、回想シーンの坊主頭が何より、彼が美形であることを際立たせてしまっていること。

 何かと技ありな演出・構成・戦略にちょっと唸らされる『夢中さ、きみに。』。いよいよ次は修学旅行だ。楽しみでならない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
ドラマ特区『夢中さ、きみに。』
MBSにて、 毎週木曜24:59~
テレビ神奈川にて、毎週木曜23:00~
チバテレにて、毎週金曜24:00~
テレ玉にて、毎週水曜24:00~
とちテレにて、毎週木曜22:30~
群馬テレビにて、毎週木曜23:30~
見逃し配信:TVer、MBS 動画イズム、GYAO
見放題独占配信:TELASA、au スマートパスプレミアム、J:COM オンデマンド、milplus
出演:大西流星(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、高橋文哉、福本莉子、坂東龍汰、楽駆、前田旺志郎、望月歩、河合優実、伊藤万理華、横田真悠ほか
原作:和山やま『夢中さ、きみに。』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督:塚原あゆ子、高野英治、宮崎萌加
脚本:喜安浩平、濱田真和
主題歌:なにわ男子(関西ジャニーズ Jr.)「夜這星」
オープニングテーマ:Broken my toybox「Hello Halo -ReLight-」(Universal Connect)
チーフプロデューサー:丸山博雄
プロデューサー:尹楊会、松本桂子、塩村香里
制作:TBS スパークル
製作:「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS
(c)「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS
公式サイト:https://www.mbs.jp/muchusa_kimini/
公式Twitter:@MuchusaKimini
公式Instagram:muchusakimini

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