『夢中さ、きみに。』映像化の狙いは? 原作へのリスペクトと「交差点」のアレンジ

『夢中さ、きみに。』映像化の狙いは?

 第23回文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞や、第24回手塚治虫文化賞短編賞など、数々の賞を受賞した和山やま氏の人気漫画を原作としたドラマ『夢中さ、きみに。』(MBS)が、関西ジャニーズJr.のユニット「なにわ男子」の大西流星の主演により、1月7日から放送されている。

 同作で描かれている、マイペースで自然体の高校生たちの何気ない「日常」は、緩やかだけど眩しくて、ちょっとへんてこで、愛おしい。

 実はこの作品がドラマ化されると聞いたときから、良作になる予感を抱いていた。

 期待大なのは、山田裕貴主演の『ホームルーム』や、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)でブレイクする前の赤楚衛二が出演していた『ねぇ先生、知らないの?』など、意欲作を連発してきたMBSの深夜ドラマ枠「ドラマ特区」で放送されること。しかも、『Nのために』『アンナチュラル』『グランメゾン東京』『MIU404』(全てTBS系)などの塚原あゆ子氏が監督を務めるのだから、間違いない気がする。

 また、出演者には『映像研には手を出すな!』出演の福本莉子や、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』出演の前田旺志郎、横田真悠など、MBSの姉妹枠「ドラマイズム」でおなじみの顔触れが並ぶ。大西とは別パートのもう一人の主人公ポジションには『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)の高橋文哉、さらに若手実力派としてトップクラスの望月歩なども出演するという、気合の入った布陣である。

 とはいえ、少々気がかりだったのは、和山やま氏の作品に流れる独特なローテンションの空気感と、不思議な「間」によるおかしさが、実写で再現できるのかということ。

 結論からいうと、ドラマ化では作品の魅力を尊重し、最大限に生かしつつも、ギャグテイストは原作比では大幅減、そのかわりに青春の甘酸っぱさやキラキラ感が大幅増量された別の空気感や味わいとなっている。

 しかし、これはドラマ化の一つの正解だと思う。なぜなら、佐々木倫子の『動物のお医者さん』(白泉社)をはじめ、映像化がどうしても困難な、独特な間や空気感のおかしさ、淡々としたギャグが散りばめられた作品はあるもので、それを生身の人間たちが演じると、過剰になったり、やかましくなったりしてしまうことが多いからだ。

 和山氏の作品にも同様の傾向を感じていたが、その点、本作ではマンガをそのまま忠実に映像化することはおそらく狙っていない。

 原作は、中高一貫校に通うミステリアスな高2男子・林美良を中心とした物語4編と、中学時代にモテ過ぎたことで起こった事件のトラウマから「絶対モテない」演出をして過ごしている二階堂明の物語4編からなる全8編の短編集だ。

 しかし、ドラマでは原作の短編の登場順も変え、「こんなに1話で出してしまって、話がもつのか」と思うほどの贅沢な盛り込み方をしていた。現時点までは原作にないオリジナルストーリーは登場しておらず、第3話では第4話の「予告編」的な遊びの映像をさしはさんでいる。ドラマオリジナルキャラを登場させ、暴走させて間を持たせるなどしないのは、原作へのリスペクトゆえだろう。

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